<US-RACING>
リッチモンド史上最多に並ぶ9回ものコーションが発生した波乱のレースは、トニー・カナーンの今シーズン初勝利で幕を閉じた。昨日の予選から絶好調だったカナーンは、今日もスタートから他を寄せ付けなかった。ピット・タイミングの違いから、一時ジェイミー・カマラにトップを譲り、カマラを抜きあぐねている隙にアンドレッティにもかわされてしまうが、206周目に再びリーダーに返り咲くと、そのままフィニッシュへと突き進む。終わってみれば、2位のカストロネベスを4.7691秒引き離す完勝で、昨年デトロイト以来の勝利を手にした。「タフなレースだったよ。とても長くて、難しかった。でも僕達は強力なマシンがあったんだ。マルコも同じく速いマシンだったけど、どちらかがトップを守るために作戦を分ける必要があった。今回は僕に幸運がめぐってきたということだね。トラフィックもほんとうにスムーズだった。みんながリーダーにスペースを置いてくれていたからね。イエローを除けば、素晴らしいレースだったよ」と喜ぶカナーン。ようやく今シーズン初勝利を獲得し、シーズン後半に向けて弾みがついた。
今週末は苦戦を強いられていたペンスキー勢。エリオ・カストロネベスとライアン・ブリスコーの二人とも、予選ではスピードが全く伸びず、カストロネベスにいたっては18番手からの厳しいスタートとなった。しかし、名門チームのペンスキーは見事に決勝でリカバリーしてみせる。残念ながら、レース序盤にライアン・ブリスコーがマルチ・アクシデントに巻き込まれ、フロント・サスペンションに大きなダメージを負ってしまうが、カストロネベスはスタートから怒涛の追い上げで、27周目にはトップ10に躍進。「全てをやりつくした」とカストロネベスが語るとおり、コース上のパッシングと素早いピット・ストップでどんどん順位を上げ、18番手スタートから2位でフィニッシュして見せた。今シーズン4回目の表彰台を獲得し、同じブラジル人のカナーンとおどけてみせるカストロネベスだが、そろそろシーズン初優勝が欲しいところだ。
スコット・ディクソンは彼らしい手堅いレースで3位を手に入れた。今週末はアンドレッティ・グリーンの速さが際立っていたため、決勝でもトップ争いに絡めるスピードがなかったが、ピット・ストップで順位を落とす以外は、常に速いペースを維持して順位を守り抜く。そして、最終ラップにチームメイトのダン・ウエルドンが突然失速したことに乗じ、スタート・ポジションから1つ順位を上げ、3位でレースを終えた。「タフな夜だったよ。僕達はとても良いマシンを持っていたけど、ここでは誰かをパスすることがとても難しいんだ。タイヤが消耗していったときは、誰かに近づくことさえ難しかった。もし最初からトップにいれば、勝つことが出来たかもね」とディクソン。堅実な走りでチャンピオンシップ・リーダーの座もしっかり守っている。
チャンプ・カー勢最上位となる5位でフィニッシュしたオリオール・セルビア。インディカー初年度とはいえ、チャンプ・カーでの豊富な経験を活かし、ライバルが次々と消えるなかでも安定した走りを披露する。もちろんトップ・クラスのスピードには届かないものの、ミルォーキーの6位を更新するIRLキャリア・ベストの5位でフィニッシュした。「今日のチームのパフォーマンスにはとても満足しているよ。おそらくみんなは、僕らがロード・コースやストリートで速いと思っているかもしれない。でも、僕はオーバルでも良い仕事が出来るということを証明したかったんだ」とセルビア。このリッチモンドでは、グラハム・レイホールが予選3位に入るなど、チャンプ・カー勢の健闘が光っていた。セルビアの言うとおり、チャンプ・カー勢がオーバルで活躍する日は遠くないかもしれない。
ピット戦略を変更し、72周目にキャリア初となるレース・リーダーへ躍進したルーキーのジェイミー・カマラ。師匠と仰ぐトニー・カナーンや、マルコ・アンドレッティといった強力なライバルを抑え、44周にわたってトップを快走する。シリーズ・トップ・クラスの速さを誇る、アンドレッティ・グリーンを相手に戦い続けることは難しく、116周目にアンドレッティのパスを許しまうものの、トップ3を維持して力走を続けた。ところが218周目のターン4で突如スピンを喫し、そのままウォールへ激突。幸いカマラに怪我はなかったが、上位フィニッシュを逃した落胆は大きく、マシンから降りてうなだれる姿が印象的だった。
カマラからリードを奪ったマルコ・アンドレッティは、90周のあいだレースをリードした。しかし上位陣が136周目にコーションを利用してピット・インしたのに対して、アンドレッティはコースに留まることを選んだことが、今日の勝負を分けることに。アンドレッティとしてはもう一度コーションが出ることを願っていたのだが、レース前半の150周で8回も発生したコーションが、全くでない。あえなくアンドレッティは206周目、グリーン中のストップを余儀なくされ、ラップダウンとなってキャリア2勝目の夢はついえてしまった。アンドレッティからリードを引き継ぎ優勝したカナーンは、136周目にピット・ストップを行っていたため、同じタイミングでピットに入らなかった判断が悔やまれる。
予選7番手からスタートを切った武藤英紀は、課題となるスタートで順位を維持することに成功し、上位を狙っていく。断続的に続くコーションに、集中力を切らすことなく10位前後をキープする武藤だったが、一向に上らないペースに苦しんでいた。そこで、前戦同様ピット戦略を駆使した上位進出をねらい、この日8回目のコーションを利用して158周目にピット・インすることを選択する。チームメイトのダニカ・パトリックの猛追を受けながら順位を守っていたものの、220周目のピット・ストップでドライブ・シャフトが壊れ、開幕戦以来となる2回目のリタイア。13位でレースを終えることになった。「厳しいレースでしたね。なんとか前に行きたかったんですが、スピードを上げることが出来ませんでした。完走できれば良かったですけど、トラブルが起きてしまったのでしょうがないです。次のワトキンス・グレンを楽しみにしています」と武藤。次戦得意のロード・コースでは、武藤の初優勝が見られるかもしれない。
今日も蒸しかえるような暑さだったリッチモンド。レース・スタートとなる午後8時を過ぎても33度あった。陽が沈むと、さすがに少し暑さが落ち着いたものの、それでも歩けば汗がにじみ出てくる。上半身裸で観戦するファンも目に付き、冷たいビール片手の観戦には最適のサタデー・ナイトだった。開放されていたグランドスタンドの約8割が埋まり、6万人がコースへ。レースはスタートからコーションが続出して合計9回に及び、102ラップのコーション周回は、2002年ナザレスの116周に次ぐ2番目の記録。同一ラップでフィニッシュしたのは8台に留まり、いかにこのレースがサバイバル戦だったかを証明している。