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アメリカン・ル・マン・シリーズ特別編 ル・マン24時間レース

<US-RACING>

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インディ500、F1モナコ・グランプリと並んで世界3大レースのひとつに数えられるル・マン24時間レース。フランス西部が1年でもっとも日が長くなる季節に行われているこの伝統のレースは、今年で76回目を迎えた。大西洋をはさんで並立するアメリカン・ル・マン・シリーズ(北米)とル・マン・シリーズ(ヨーロッパ)のチャンピオンシップ・ランキング上位、またはセブリング12時間やプチ・ル・マンなどのビッグレースを制したチームや、ル・マンを統括するACOから招待を受けたチームが出場するため、ル・マン24時間レースはチャンピオンシップを抜きに、是が非でも勝ちたいレースの一つである。今回US-RACINGではアメリカン・ル・マン・シリーズ特別編として、ル・マン24時間におけるアメリカン・ル・マン・シリーズ勢の活躍を追った。

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昨年同様、アウディVSプジョーによるクリーン・ディーゼル・エンジンの激戦に注目が集まった今年のLMP1クラス。予選ではプジョーが圧倒的な速さを見せ、トップ3を独占する。午後3時にスタートが切られたレースでもプジョーがトップ3を固め、磐石の出だしを見せた。今年こそプジョーの優勝を信じる地元のファンが見守る中、レース開始から3時間で早くも8号車のプジョーがトラブルに見舞われて後退。その4時間後には9号車のプジョーがスピンを喫して3番手に落ち、ここからニコラ・ミナシアン、マルク・ジェネ、そしてF1ワールド・チャンピオンにしてインディ500ウイナーのジャック・ヴィルヌーヴという布陣の7号車プジョーと、アメリカン・ル・マンで活躍するアラン・マクニッシュ、ディンド・カペッロ、ル・マン最多勝記録更新を狙うトム・クリステンセンが駆るアウディ・ノース・アメリカの2号車との一騎打ちとなった。

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ドライコンディションで始まったレースは、ちょうど折り返しを迎えた12時間ごろからぽつぽつと雨が降り始めた。深夜の雨によって、視界が極端に悪くなるクローズド・ボディの7号車プジョーは、一気にペースダウン。2号車アウディが瞬く間に差を縮め、234周目の同時ピット・ストップでついにトップを奪い取った。そこから2号車アウディは1周6秒以上速いタイムでプジョーを引き離し、レース後半の主導権を完全に掌握。夜が明けて7号車プジョーがその速さを取り戻すものの、アウディも変わらないタイムで応戦し、レースはトップ2が同一ラップという緊張に包まれた中で、残り1時間を迎える。

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逃げる2号車アウディに、追う7号車プジョー。24時間という長さをまったく感じさせない緊迫感のあるレースの最後は、残り20分で7号車がまさかのパンクを喫し、2号車アウディの優勝が決定的となった。残り10分を切ると、フィニッシュ・ドライバーのクリステンセンが、マシンをいたわるようにぐっとペースを落とし、1周13.629キロ・メートルのサルト・サーキットを走行。終了時間の午後3時を迎えるとともに、フィニッシュラインを通過して栄光のチャッカード・フラッグを受けた。「これまでのレース人生の中で最もタフなレースだったよ。プジョーは僕達を常に大きなプレッシャーにさらしていた。でも最後には優勝できたんだ」と苦しかったレースに喜びを爆発させるマクニッシュ。最大のライバルであるプジョーを2年連続で下し、アウディが5年連続8回目の優勝を飾った。アウディ帝国の終焉はまだまだ見えてこない。

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今年こそ優勝という地元のファンの応援にこたえる走りを予選からレース序盤まで見せていたプジョー。ただ、今年もその栄光はお預けとなってしまった。今年はル・マン24時間を見据えセブリング12時間にもエントリーし、今回のレースに挑んだプジョーだが、トラブル以外にも天候によるクローズド・ボティによる視界の低減といった問題により、ペースダウンを余儀なくされていた。耐久レースではマシントラブルはもちろん、コース上でのアクシデントも含め何が起こるかわからない。そういった意味で一周でのスピードの差は明らかにプジョーが優位だったが、安定性と耐久レースの経験値が多いアウディ、そしてドライバーの勝利になった。優勝が無理とわかっていてもレースが終了する30分ほど前から地元ファンの前をプジョーのマシンが通過すると、フランス国旗が大きく振られ、そしてフォーンをつかった声援が送られていた。それは勝ち負けに関係なく24時間を戦いきった自国の英雄に送る熱いエールだった。

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ポルシェRSスパイダーの参戦が注目されたLMP2クラス。アメリカン・ル・マン・シリーズからは、ペンスキーに乗るサーシャ・マーセンがチーム・エセックスのポルシェを駆り、見事クラス2位を獲得した。優勝は同じくポルシェで出場したバン・メルクシュタイン・モータースポーツ。RSスパイダーが下馬評どおりの速さを見せ、P2クラス・ワン・ツー・フィニッシュを飾った。

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P1クラスに負けないほど、アストン・マーチンDBR9とコルベットC6Rの白熱した戦いとなったLMGT1クラス。フィニッシュまで同一ラップで2台が争う展開となったなか、優勝を手にしたのはガルフ・カラーの009号車アストン・マーチンだった。アメリカン・ル・マンのディフェンディング・チャンピオンであるラン・フェロウズ、ジョニー・オコネル、ヤン・マグネッセン組のコルベットは惜しくも勝利を逃した。「恥じることは何もないよ。コルベット・レーシングは素晴らしい仕事をしたんだ。2年間勝利を逃す結果になったけど、同一ラップで戦うことだってタフなのさ。僕達は来年もここへ戻って戦うよ」と悔しさを隠すオコネル。この悔しさは今シーズンのアメリカン・ル・マンでの年間チャンピオンと、来年のル・マンで晴らしたいところだ。ちなみに優勝を飾ったアストン・マーチンには、現在アメリカン・ル・マンでハイクロフト・レーシングのアキュラを操るデイビッド・ブラバムが助っ人で出場し、見事に勝利を収めた。

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LMGT2クラスは毎年フェラーリとポルシェがしのぎを削り、今年もその戦いぶりが期待されていた。しかし、レース開始早々にアメリカン・ル・マン勢のIMSAパフォーマンスと、フライング・リザード・レーシングがまさかの接触を喫してしまう。これでフェラーリが終始レースを優位に進め、表彰台を独占。その頂点に立ったのは、昨年のアメリカン・ル・マン・シリーズGT2クラス・チャンピオンのミカ・サロとジェイミー・メロに、元ミナルディのF1ドライバーであるジャンマリア・ブルーニが駆るフェラーリだった。「みんながほんとうにすごい仕事をやってくれたよ。雨が降った中での夜のドライブは、簡単ではなかったけど、ミシュラン・タイヤはとても安定していた。チームメイトもすばらしい走りをしたし、フェラーリのパフォーマンスはファンタスティックさ」と喜ぶメロ。この勢いに乗ってアメリカン・ル・マン・シリーズの連続チャンピオンを狙いたい。

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日本からも多くの挑戦者がいた今年のル・マン。その中の最上位は今回初めてクローズド・ボディを持ち込んだ童夢だが、相次ぐトラブルとアクシデントによって、33位に留まった。現役最多となる29回目のル・マンに挑んだ“ミスター・ル・マン”こと寺田陽次郎は、完走規定周回数に届かなかったものの、209周を走りきって無事にチェッカーを受ける。ル・マン史上初となる大学チームの挑戦となった東海大学は、トラブルから185周でレースを終えた。そのほか中野信治が所属したイプシロン・エスカディ、予選での大クラッシュから復活した野田英樹のローラ・マツダは、それぞれ147周で戦列を去ることとなり、日本勢には悔しいル・マン24時間となってしまった。

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昨年から激しく覇権を争うアウディVSプジョーは、またしてもアウディに軍配が上った。P1のアウディをはじめ、それぞれ表彰台の頂点に立ったチームすべてにアメリカン・ル・マンを戦うドライバーが入り、アメリカン・ル・マン勢が大活躍を見せてくれた。耐久レース界の一大イベントを終え、シリーズは7月12日ライム・ロック・パークでのレースから再開される。ル・マンで見られた興奮のレースが、そのままシリーズ戦でも展開されることを期待したい。