<US-RACING>
インディ500の興奮が覚めあらぬミルウォーキーでポール・ポジションを獲得したのは、先週のレースを沸かせたマルコ・アンドレッティだった。最後から2番目のアタッカーとして登場したアンドレッティ。1周目にそれまでトップにいたグラハム・レイホールを0.5マイル突き放すと、2周目にはこの日最速スピードとなる168.658をマークする。3周目でスピードを落とすものの168マイル台をフィニッシュまで維持し、4周平均168.079マイルを記録。レイホールを逆転。37戦目にして初めてのポール・ポジションを獲得し、トーマス・シェクターの持つ史上最年少ポール・ポジション記録を181日更新した。「新記録だなんて知らなかったよ。ただミルウォーキーのポールを取っただけさ。チームが素晴らしい仕事をしてくれたと思う。プラクティスでも良いラップを出せていたから、自信はあったんだ。最初のラップで良いマシンだってことが分かったから、安定したラップを刻めたよ」と喜ぶアンドレッティ。インディ500というビッグタイトルを逃した雪辱を、アメリカ最古のコースで果たせるか注目だ。
予選2位にはチャンプ・カー勢のグラハム・レイホールが付け、1992年ニュー・ハンプシャーのボビー・レイホールとマイケル・アンドレッティ以来となる、アンドレッティ家VSレイホール家のフロント・ロー対決がついに実現した。今朝のプラクティスで総合トップに立ち、絶好調だったレイホール。予選に入ってからもそのスピードは衰えることなく、11番目にアタックを行うと、それまでトップにいたインディ500覇者、スコット・ディクソンを0.017マイル差の僅差で退けた。最後はアンドレッティの逆転を許し、残念ながら初ポール・ポジションはお預けとなったが、堂々の初フロント・ローを獲得した。「もちろん初めてのフロント・ローは、とても嬉しいよ。これがポール・ポジションだったらもっと素晴らしいだろうね。ポールまであとほんの少しだったけど、不運にも獲ることが出来なかった。明日はここからポジションを上げてみせるよ。レース・カーの仕上がりもばっちりだし、どうなるか見ていてよ」と意気込むレイホール。予選直後にはニューマン/ハース/ラニガン・レーシングの共同オーナーで、俳優のポール・ニューマンも駆けつけ、喜びのあまりガッツ・ポーズを見せた。インディカー・ファンが待ち望んだネクスト・ジェネレーションの対決をどちらが制するだろうか?
先週インディ500を制したスコット・ディクソンは予選を3位で終えた。ビッグ・タイトル獲得の喜びもつかの間、ミルウォーキーにやってきたディクソンだが、インディアナポリスで見せたスピードはここでも健在。8番目のアタッカーで登場すると、その時点でトップにいたトニー・カナーンを1.2マイル近く上回る167.637マイルのスピードをたたき出す。このスピードは、その後レイホールとアンドレッティによって塗り替えられたが、3位を維持して明日の決勝に備える。「僕達のマシンはポール・ポジションを獲るのに十分な速さを持っていたと思うよ。2周目、3周目を速く走る代わりに、4ラップ手堅く走ることが出来れば、グラハムとマルコの前に出られたと思うね。今日はとても良いスピードを見せることが出来た。明日のレースに向けても良いマシンに仕上がっている思うよ」とディクソン。連覇を決めてチャンピオン争いに先手を打ちたい。
金曜日に行われたルーキーのみのプラクティスをトップで終えた武藤英紀。昨日からの好調を維持し、今日のプラクティスでも総合5位につけ、予選を迎える。6番目に登場した武藤は159.359マイルのウォーム・アップから1周目にジャスト164マイルを記録するが、そこからスピードが伸びていかず、4周目には162マイル台にまで落ち込んでしまった。4ラップ平均163.368マイルは、この時点で4位。しかし、その後アタックを行ったライバル達が次々と武藤のスピードを塗り替え、結局14位で予選を終えることになった。プラクティスからすると残念な結果になったが、この位置からの巻き返しを期待したい。
「プラクティスまでは調子が良く、手ごたえがありました。2回目のプラクティスでは車高を下げすぎてしまい、底打ちしてタイム・アップできませんでしたね。プラクティスは決勝用のセット・アップを行っていたんですが、最後に予選アタックをシミュレーションするとき車高を上げ忘れてしまったので、予選に向けた良いデータが得られませんでした。予選ではアンダーステアがものすごく強かったです。それでも決勝のセット・アップは良くて、周りのペースにもよりますけど、かなり順位を上げられると思います。フィーリングも良いので、ピット・ストップで順位を上げていけば、後半に良いレースが出来るでしょうね。単独では抜きにくいとは思いますが、インディ500のようにトラフィックを利用すれば抜けると思います」
今シーズン、オーバル・コースでの苦戦が続くチャンプ・カー勢。だが、このミルウォーキーだけは2006年までチャンプ・カーが開催されていたコースだけあって、データと経験を持ち合わせている。インディカー勢に対してどこまで迫れるかが注目されていたなか、レイホールを筆頭に、結果は予想をはるかに上回るものとなる。トップ10の結果を見るとアンドレッティ・グリーン、チップ・ガナッシ、ペンスキーの3強以外は、全てチャンプ・カー勢で埋め尽くされ、2位グラハム・レイホール、4位ウィル・パワー、8位エンリケ・ベルノルディ。9位オリオール・セルビア、10位EJヴィソに入った。第2戦のグラハム・レイホール以来のチャンプ・カー勢の優勝はあるのか、こちらもぜひ注目したいところだ。
吹き付ける強い風の影響なのか、午前のプラクティスからクラッシュが相次いだ。特にスピードが一番乗るバックストレートへの立ち上がり、ターン2でのクラッシュが多く、プラクティスではジョン・アンドレッティ、マーティ・ロスとA.J.フォイト4世がウォールの餌食となる。予選に入ると大きな混乱なくアタックは進行していくが、22番目のアタッカーで先週のインディ500でディクソンとトップ・争いを演じたヴィットール・メイラがターン2でスピン。マシンはリアからウォールに当たった後、跳ね返って内側のウォールに激突して止まった。幸いメイラに怪我はなかったが、マシンは無残な姿に。一日に4度も同じ場所でクラッシュが起きたことから、決勝でもターン2が鬼門となるかもしれない。
朝から快晴のミルウォーキー・マイル。時折強い風が吹きつけていたが、青い空から射す太陽のおかげで気温は24度にまで上がり、半そででも外を歩けるくらいの陽気となった。インディ500からわずか1週間で行われるミルウォーキーでのレース。100年の歴史を持つアメリカン・オープン・ホイール・シリーズのなかで、インディ500の次戦にミルウォーキーがスケジュールされたことはこれまで51回ある。そのうちインディ500とミルウォーキーの連覇を成し遂げた例は7例しかない。前回は2000年にファン・パブロ・モントーヤがIRLのインディ500で優勝を果たし、翌週に行われたチャンプ・カーのミルウォーキー戦でトヨタ・エンジンに初優勝をプレゼントするという、シリーズをまたいだ連覇の偉業を成し遂げた。12年ぶりにシリーズが統一された最初のインディ500で栄冠を勝ち取ったディクソン。果たして8年ぶりの偉業達成となるのか目が離せない。