<US-RACING>
12年という長い歳月を経て統一されたアメリカン・オープン・ホイール・レーシング。2008年開幕戦のグリーン・フラッグが振られた瞬間は、新たな時代へのグリーン・フラッグとも言える。25台のマシンが一斉にスタートするのは、実に壮観。グランド・スタンドの観客も昨年より確実に増えており、アメリカン・オープン・ホイールの将来が明るいものになることを予感させた。
アメリカン・オープン・ホイール・レーシングの新時代を告げる歴史的一戦。その勝者に輝いたのはスコット・ディクソンだった。ポール・ポジションからスタートしたディクソンは、トニー・カナーン、マルコ・アンドレッティ、ダン・ウエルドンといった強力なライバルと、時にポジションを入れ替えながら激しいトップ争いを演じる。レース終盤はカナーンを追う立場に転じるものの、そのカナーンは残り7周で他車とのアクシデントに巻き込まれて脱落。再びトップに立ったディクソンは、この日3回目のリスタートも完璧に決め、そのまま通算11勝目のチェッカーを受けた。「実はこのレースで特別速さがあったわけじゃないんだ。僕たちの思い通りにレースが出来なかったけれど、それでもトップでフィニッシュすることができた。速さがなくても上手くトップに立って、他のドライバーからポイントを取ることは大切なことだよ。今シーズン、今日と似た展開のレースがあれば、同じようにトップでフィニッシュしたいね」と話すディクソン。5年ぶりのタイトル奪回に向け、最高のスタートを切った。
レース中盤を支配したマルコ・アンドレッティは2位でレースを終えた。ヴィジョン・レーシングの2台が車両違反により最後尾へ降格となったため、4番手スタートに繰り上がったアンドレッティ。2回目のピット・ストップが完璧に決まり、74周目からトップに立つと、一時は2番手のスコット・ディクソンを引き離しにかかった。ところが、トップを走るアンドレッティの行く手を阻んだのは、渋滞の嵐。周回遅れのマシンを一台、また一台とかわすごとにリードは縮まり、ついにはリーダーの座から陥落してしまう。2番手はキープするものの、最後はトップのディクソンを追いきれずにフィニッシュ。アメリカ人ファンが待ち望む、キャリア2勝目はまたもお預けとなった。「かなり良いシーズンの始まりじゃないかな。オフ・シーズン・テストのときから、レース用セット・アップに集中してきたんだ。エンジニアと一緒にがんばって、このようなコースにぴったりのセットアップを見つけることができたと思う。クルーは最高の仕事をしてくれたよ」と満足げに話すアンドレッティ。この様子だとキャリア2勝目は時間の問題かもしれない。
怒涛の追い上げで3位に入ったダン・ウエルドン。昨日の予選でまさかのクラッシュを演じた3年連続ウイナーは、22番手という後方から追い上げを強いられた。しかし、レースがスタートすると、別のクラスのマシンを走らせているかのように次々と前車をかわしていき、わずか10周で9番手まで順位をアップ。その後も手綱を緩めることなくフロント・ランナーを追いかけるウエルドンは、レース終盤、前を走る2番手のマルコ・アンドレッティを追い詰める。何とか攻略の糸口を見つけようと、アンドレッティに揺さぶりを掛けるが、最後まで決め手を欠き、そのまま3位でレースを終えた。「コース上にいるほかの人たちが、僕のマシンが速いということを知っていて、よけてくれているようだったね。とてもクリーンにパスできたよ。厳しい一日だった昨日を考えると、3位になれたのは良かったよ」と語るウエルドン。ホームステッド4連覇とはならなかったが、開幕戦から見ごたえ十分なレースを見せてくれた。
スタートからディクソンと激しいトップ争いを繰り広げていたトニー・カナーン。レース終盤の182周目にトップに立つと、後方を引き離し、レース・ウイナーはカナーンかと思われた。しかし193周目、ターン3でクラッシュしたアーネスト・ヴィソのマシンが、不運にもカナーンの右フロント・タイヤに接触。ヴィソはそのままリタイアに追い込まれ、この日3回目のコーションが発生した。カナーンはマシンを走らせ続けていたが、タイヤは進行方向右側に大きく曲がってしまう。残り7周でのコーションのため、セーフティ・チームがヴィソのマシン処理に手間取れば、コーションのままレースが終了し、カナーンの優勝ということも考えられた。その可能性に掛けたカナーンは、タイヤが大きく曲がってしまったマシンのままコーション・ラップを走り続ける。必死でマシンをコース上にとどめるカナーンの走りに、グランド・スタンドの観客からスタンディング・オベーションが沸き起こった。だが、無情にもレースは残り3周で再開してしまう。なんとかカナーンはマシンのスピードを上げようとするものの、手負いのマシンで為す術はない。残り2周でレースをあきらめざるを得なかったが、カナーンの健闘をたたえ、観客席から大きな声援が送られていた。ある意味ではカナーンが今日のレースの主役だったからも知れない。
7番グリッドを獲得した武藤英紀は、アクシデントにより32周目でレースを終えることになった。スタートからハンドリング不調に見舞われていた武藤は、ずるずると後退してしまい、一時は18番手となってしまう。さらにピット・ストップでは、カストロネベスと交錯しそうになり、ピット・インできないという不運に見舞われ、ここで武藤は焦りがでたと語った。2セット目には調子を取り戻し、これから追い上げをはじめたいところだったが、今度はポジションを争っていたドライバーに道をふさがれ、武藤のマシンはウォールにヒット。マシンのダメージは予想以上にひどく、今日のレースを諦めざるを得なかった。「今日のレースが終わった瞬間、この世の終わりぐらい落ち込みました。でも、すごく落ち込んだ分、立ち直るのも早かったのかと思います。問題はクリアになりましたし、明日はオフを取って次戦に備えます」と正直な気持を語る武藤。次戦セント・ピーターズバーグへの意気込みを聞かれると「やります」と力強く応えてくれた。
チャンプ・カー組みでトップとなったのはオリオール・セルビアだった。オーバルコースでのレース経験が今回のレースにも反映されてはいたが、同一周回とはいかず、5周遅れの12位フィニッシュ。やはり、準備期間が限られていたチャンプ・カー組の劣勢は否めず、オーバルでのインディ・カー・チームとの差が明確に現れた。「今日は良いことと、悪いことのどっちもあったね。良い事に関しては、オーバルのレースで必要だった情報がレースを完走することで得られたこと。悪いことに関しては、やはりマシンが遅すぎたよね。でも、僕は良いチームにいるから、近いうちに良いポテンシャルを見せることができると思うんだ」と、セルビア。今日のウイナーであるディクソンが語るように、今後、レースを重ねていくことで、チャンプ・カーのチームがレベルアップしていくのは明確だ。来年の開幕戦では同レベルでのバトルが見られるだろう。
昨日の予選で2位と3位に入ったヴィジョン・レーシング。誰もが驚くような快走を見せた2台だったが、予選後の車検でリア・ウイングに車両規則違反が発覚し、あえなく2台とも最後尾へ降格処分となる。だが、決勝では昨日の予選を再現するかのような走りを見せ、エド・カーペンターが5位、A.J.フォイト4世が9位に入る好成績を残し、昨日の予選が不正によって作り上げられたものだけではないことを証明した。
今シーズンから表彰式のスタイルが変更された。昨年までは優勝者しか表彰されない方式だったものが、今年からトップ3が表彰台に登場するというどのスポーツでもよく見慣れたスタイルとなる。3人のドライバーが揃うことで、表彰式が華やかになった気がした。ちなみにヨーロッパのレースで見るようなシャンパン・ファイトは今回なく、インディ500の表彰式はこれまでどおり勝者のみが表彰されるということだ。
今日も朝から快晴だったホームステッド・マイアミ・スピードウェイ。新生インディカーの門出を祝うかのように、この2日間は晴れ渡った。昼間は昨日と同じく汗ばむほどの暑さとなるが、夜になると風が吹いて涼しくなり、レース観戦にはちょうどよい気温だった。
今シーズンからインディカー・シリーズのペース・カーが、2008年モデルのアコードに変更になることに伴い、カラーリングも一新された。新しいカラーリングはインディカーのサイトで公募する、ユニークな方法によって決定し、ジョニー・ラザフォード、アル・アンサーSir.、アル・アンサーJr.そしてリック・メアーズというインディ500優勝経験者によって選ばれたのは、写真右手に写るリチャード・クラークさんのデザイン。今日はそのセレモニーが行われ、クラークさんはIRLから開幕戦に招待された。「こんな名誉なこと、まったく予想していなかったです」と大喜びのクラークさん。ペース・カーのトランクには彼の名前が刻まれ、インディカーの舞台で活躍する。
午後2時からはグランド・スタンド裏のカフェテリアで、ドライバーのサイン会が行われた。会場には、テスト中のクラッシュによって今週末出場できないグラハム・レイホールを含む、新生インディカー・ドライバー26名が勢ぞろい。ファンはドライバーと間近で接する貴重な時間を求め、長い列を作って自分の番が回ってくるのを待っていた。ドライバーがサインを書くグッズも様々。定番の帽子、Tシャツ、オフィシャル・プログラムからダイキャスト・ミニカー、中には『I am INDY』と書かれた大きなフラッグに、26名全員のサインを書いてもらっているファンもいた。
サイン会はドライバーの人気を計るバロメーター。人気が高いのは、やっぱり実力No1女性ドライバーのダニカ・パトリックだが、今年はアメリカの人気テレビ番組『ダンシング・ウィズ・スター』で一躍有名になったエリオ・カストロネベスの人気も高く、カストロネベスの前に来た人全員が彼のサインを求めていた。
カストロネベスの人気はオフィシャル・グッツにも反映され、こんなTシャツも販売されていた。
グランド・スタンド裏では、ホームステッドRCスピードウェイというラジコン・コースが設けられ、丹精こめて作った自慢のマシンを走らせていた。ラジコンはバッテリー式ではなく、エンジン式のため、グランド・スタンドの裏には甲高いエキゾーストノートがこだまする。本家スピードウェイでの走行セッションがないときには、エンジンカーの走りを見に多くの人が訪れていた。