「またもやペンスキー!」。アメリカン・ル・マン・シリーズ(ALMS)開幕戦である伝統のセブリング12時間のレース後、最初に頭に浮かんだ一言がこれでした。先月のNASCAR開幕戦デイトナ500に次いで、またもや念願のビックタイトルを獲得したロジャー・ペンスキー。今年はこのまま本当にペンスキー一色の年になってしまいそうです。
今年のセブリング12時間レースは、昨年同様に耐久戦とは思えないほどの大接戦がチェッカー寸前まで続き、非常に見ごたえあるレースでした。リードチェンジ27回は大会レコードで、トップ4が同一周回でフィニッシュするのはシリーズ史上初の快挙という結果が、激戦を大いに物語っています(注:2位フィニッシュのフェルナンデス・レーシングは車両違反で順位取り消しとなったため、リザルト上では3台になっています)。そして、その大接戦を制したのは、LMP2クラスのペンスキーのポルシェRSスパイダーでした。ポルシェのセブリング12時間総合優勝は、ハンス・シュトックとクラウス・ルドビックが名車ポルシェ962で優勝した1988年以来となる久々のもの。とはいっても、優勝回数はこれで最多の18回目なんですけどね。56回中18回ってことは、約3回に1回はポルシェが優勝しているってことですね。こうやって数字を並べられると、改めて“耐久の王者ポルシェ”を実感しますね。そして、ペンスキー・レーシングにとっては、意外にもこれが初優勝。オープンホイールであれだけの成績を収め、ALMSでも昨年ポルシェRSスパイダーで圧倒的な強さで王者を獲得しているペンスキーが伝統のセブリング12時間を勝っていなかったというのは驚きでしたが、今年は見事に念願の優勝を手に入れたというわけです。
それにしても、今年のペンスキーは例年に増してチーム全体にものすごい勢いが感じられますね。まだ記憶に新しいデイトナ500では、ライアン・ニューマンとカート・ブッシュが最終ラップに大逆転での1−2フィニッシュを果たし、それからわずか半月後にまたまた北米レースのビッグタイトルを獲得しちゃうんですから、改めてチームの総合力には驚かされます。優勝こそならなかったものの、久々に登場したデイトナ24時間レースでも、夜間にトラブルが出るまで堂々のトップ争いをしていたほど。まったくもって、北米の主要レースを根こそぎもっていきそうな勢いですね。ペンスキーは昨年、NASCARで使用していたノースカロライナ州の巨大なファクトリーにすべてのカテゴリーを集結させ、チームの力をあらゆる参戦カテゴリーに注入させる体制を整えたのですが、今年に入って即座に結果に現れるあたりはさすがと言えますね。この勢いだと、インディカー・シリーズも席巻して、史上初めてNASCAR、ALMS、そしてインディカー・シリーズの北米主要カテゴリーのタイトルを総なめなんてことも可能性として十分考えられます。一番厳しいのはNASCARでしょうけど、今年はダッジ・チャージャーの戦闘力もなかなか良さそうですし、ひょっとしたらひょっとするかもしれません。今年はあらゆるカテゴリーで、ペンスキー・レーシングのクルマに注目していきたいですね。
さて、やや話は飛んでしまいましたが、今年のセブリング12時間はとにかく話題が豊富で見所満載のレースでした。話題の主役はもちろん“アウディvsプジョー”の対決。特に北米初上陸のプジョー908は最大の注目でしたね。ル・マン前哨戦ともいえるセブリングでどんな走りを見せてくれるのか楽しみでしたが、スタート後3時間で油圧系トラブルが出て早々に脱落。結果は残念でしたが、スタートで王者アウディをかわし、スピードでは王者の上を行っていました。あとは昨年から言われている信頼性の向上が焦点になりそうですが、現時点ではまだまだ厳しそうですね。一方のアウディも、レース中盤にまさかのトラブルで後退。信頼性には絶対の自信を持っていたアウディの後退はかなりショッキングでしたが、これで今年のル・マン24時間は相当面白くなりそうですね。アウディは今年からヨーロッパのル・マン・シリーズへの参戦を表明しており、そこでのプジョーとの対決にも注目が集まります。
また、うれしいニュースとしては、アウディは今年もALMSに2台体制で留まることを発表してくれたこと。昨年はLMP1クラスや不利なレギュレーションだったため、ポルシェ勢に辛酸を舐めましたが、今年はマシンの重量や燃料タンクのレギュレーションが変更になり、LMP1クラスが有利な状況になりそうですから、またアウディが毎戦勝ちまくるレースが見れそうです。もっとも、その緒戦にいきなりポルシェ勢に足元をすくわれたのが何とも皮肉なことではありますが……。
残念だったのはアキュラ勢。特に、2位でフィニッシュしたフェルナンデス・レーシングがレース後、車両違反に問われ失格になったことは非常に残念でした。たしかに結果だけ見れば、エースチームともいえるアンドレッティ・グリーン・レーシング(AGR)がリタイアし、最上位は2周遅れのハイクロフトの5位と、惨敗といってもいいものだったかもしれませんが、今シーズンに向けての収穫も多く見られました。中でも一番は、やはりフェルナンデス・レーシングの“予想外(?)”の活躍でしょう。昨年アキュラ勢では唯一ローラ・シャシーを使用し、今年からアキュラ製オリジナル・シャシー、ARX-01Bへスイッチ。その緒戦でいきなりの快走は、大いに驚かされましたし、同時にチームのポテンシャルの高さを感じましたね。昨年版をアップデートした新シャシーも上々で、レース中盤まではAGRがポルシェ勢をリードしていたのが何よりの証です。そのAGR勢は、最後はオーバーヒートでリタイアしてしまいましたが、フロントシャシーのウイングを2枚にしてダウンフォースを大目に取るセットアップで見せた走りは印象深かったですね。特に初登場のマルコ・アンドレッティの走りは強烈でした。高速の1コーナーを毎周アクセル全開で、誰よりも速く駆け抜けていく走りはまさに圧巻。ひとりだけ、スプリントレースをしているような走りは、やはりアンドレッティ家の血筋なんだろうなぁと漠然と思ってしまいましたね。昨年はカナーンが出て、今年はマルコ。こうなったら、武藤にもALMSのレースにぜひ出場してほしいですね。