トニー・カナーンがフォーミュラ・ニッポン最終戦にスポット参戦するというニュースが突然飛び込んできました。さすがにこれには驚きました。何せ、現役のトップインディカードライバーが日本のフォーミュラ・レースに出走するというのは、僕の記憶がたしかなら、前例は一度もないはず。まさにレース業界を驚かせる仰天発表だったわけです。
この発表を聞いて最初に思ったのが「なぜ?」ということ。もちろん、カナーンはフォーミュラ・ニッポンにエンジンを供給しているホンダと強いコネクションを持っていることから実現したという容易な推測はできますが、フォーミュラ・ニッポンから発表されたプレス・リリースにある、『トニー・カナーン選手の参加を要請してまいりましたが、etc』、『トニー・カナーン選手の参戦はフォーミュラ・ニッポンに留まらず、日本のレース界全体の活性化及び振興に大きく寄与するものと確信いたします』という一文を見る限りでは、フォーミュラ・ニッポン側が世界的なドライバーの同シリーズへの参戦を希望していて、カナーンに白羽の矢が立った見る向きが正しそうです。IRLシーズンは9月中旬で終了してますし、シリーズ終盤にAGRから出場したアメリカン・ル・マン・シリーズも先週末のラグナセカでシーズンが終わりましたので、日程的には参戦に支障がまったくなかったことも大きかったのでは。それと、最終戦の舞台が、カナーンの同郷にして永遠のヒーローでもあるアイルトン・セナと何かと所縁のある鈴鹿サーキットであったことも、カナーンに参戦を決断させた要因だったのではと思います。まあ、その辺の推測をここでしても意味はないんですが、とにかくカナーンのフォーミュラ・ニッポン参戦が同シリーズ最終戦の目玉となることは言うまでもなさそうです。
「なぜ?」の次に思ったのは、「っで、どうなのよ?」ってこと。つまり、果たしてどれだけのパフォーマンスを見せてくれるのかってことです。「現役IRLドライバーで元王者なんだから、そりゃあ優勝してくるんでしょ!」と思っている人もいると思いますし、アメリカンレースを取材している身としてはもちろんカナーンの大活躍を期待して止まないんですが、果たして事はそう簡単に進むかといえばおそらく「?」。まず、カナーンは最終戦の舞台鈴鹿サーキットを一度も走ったことがない。それに、現在フォーミュラ・ニッポンで使用されているシャシーは2006年から使用されており、各チーム&ドライバーがその特性を知り尽くしている点もカナーンにとってはかなりのディスアドバンテージになってしまうはず。ただ一方で、そのシャシーはインディカー同様にグラウンド・エフェクトを発生させるウイングカーでありますし、それと去年からフォーミュラ・ニッポンで使用されているエンジンは、ホンダとトヨタが以前IRLで使用していた3.0リットル・エンジンをモディファイしたもので、現状のIRLのエンジンとも基本設計は一緒。カナーンにとっては多少なりとも慣れ親しんだ要素があることはメリットにはなるはずです。まあ、かなり焼け石に水的で強引な憶測ではありますが……。それと、仮にカナーンが予選からトップ争いをできたとしても、最終戦ということでチャンピオン争いとの兼ね合いもあって、果たしてどこまでアグレッシブになれるかも焦点になりそうです。
とまあ、カナーンにとってはなかなか厳しい状況にはなるかと思いますが、そんなものをすべて蹴散らして、ぜひいいパフォーマンスを見せてくれることを期待したいですね。1991年7月、フォーミュラ・ニッポンの前身、全日本F3000選手権第6戦菅生のレースに当時新進気鋭の若きミハエル・シューマッハーがジョニー・ハーバートの代役としてスポット参戦して、初レース、初コース、性能の低いラルト・シャシーという悪条件をものともせず、いきなりロス・チーバーに次ぐ2位に入る衝撃的なパフォーマンスを見せてから早16年。そのシューマッハーの再現をカナーンに期待しつつ、11月18日のフォーミュラ・ニッポン最終戦のレースを楽しみに待ちましょう。