先週、取材先のNASCAR第31戦シャーロットでトヨタユーザーのマイケル・ウォルトリップ・レーシングがいくつかの発表を行ったのですが、その中のひとつに投資家とのパートナーシップ契約というものがありました。ただでさえNASCAR関連の記事が少ない日本では、この話題を目にする機会は恐らくないのではと思いますが、これって今のNASCARを象徴している発表でもあったので、今回はちょっとお話させていただこうと思います。
その前に、マイケル・ウォルトリップ・レーシング(MWR)について簡単に紹介していきましょう。MWRはユニークなキャラクターで人気のあるベテランドライバーのマイケル・ウォルトリップが、今年トヨタのネクステルカップ参戦と歩調を合わせるように立ち上げた新チームで、今シーズンはウォルトリップ自身と、1999年のカップ王者デイル・ジャレット、それとルーキーのデイビッド・ルーティマンの3台で参戦しています。トヨタと共に“NASCARルーキー”であるため予選落ちも多く、当初の予想通りかなり苦戦を強いられてはいますが、シーズン終盤になって徐々に戦闘力を挙げてきている注目のチームでもあります。そのMWRが、来シーズン途中でジャレットが引退することを発表した記者会見を開催。ジャレットはすでに50才で、もともと来シーズンいっぱいで引退すると言っていたことから、多少引退時期が早まっただけで、それほど驚きに満ちた発表ではありませんでした。問題はそれと共に発表されたビジネス面でのものでした。
MWRは、ビジネスパートナーとして投資家のロバート・カウフマンなる人物をチームに迎え入れ、今後は共同オーナーとして金銭面とビジネス面でチームをサポートしていくことを発表。具体的な数字等は公表されなかったものの、チーム株式の大部分を取得してチーム運営に関わっていくことになりました。もちろん、ウォルトリップ自身はドライバーでもあるため、これでチーム運営の心配をせずにドライバー業に専念できるという“大義名分”はあるのですが、本来の目的はもちろんお金。年々競争力が激化しているNASCARでは、優勝争いをするにはファクトリーの拡大、マシン開発、そしてそれらに伴う人員増大をしていかないと競争に取り残されてしまい、それらを実現させるには当然ながら莫大なお金がかかります。もちろんスポンサーマネーは重要な収入源ですが、それだけでは賄えないほどNASCARの競争力は激化の一途をたどっているのです。そこで出てきたのが、今回のような投資家というわけです。利益のない場所には決して現れない投資家が、NASCARを投資目的のひとつとしてみているということは、“NASCARが投資先として十分に値する=NASCARは金になる”ということを意味していると言えます。チーム側としても、競争力を高めるためにはお金はありすぎて困るものではないですし、ひいてはそれが新たなスポンサー獲得につながることになります。両者の思惑が完全に一致しているのです。
特に今年に入ってから、投資家による積極的なNASCAR進出が目立ちます。主だったところでは、フォードのワークスチームとも言えるラウシュ・レーシングに、松坂大輔選手が所属する大リーグMLBボストン・レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリー氏がチーム運営に参入し「ラウシュ・フェンウェイ・レーシング」として生まれ変わりました。「フェンウェイ」とはレッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークから取った名称です。また、ダッジの有力チーム、エバンハム・モータースポーツに北米プロアイスホッケーリーグNHLのモントリオール・カナディアンズのオーナーにして、英サッカー・プレミア・リーグの強豪リバプールの共同オーナーでもあるジョージ・ジレット氏が参入して「エバンハム・ジレット・モータースポーツ」に改名されたのはつい3カ月前のこと。そして今回のMWRの発表です。今後もこうした動きはますます加速していくことは必至といえます。
ただ、行き過ぎたマネーゲームがレースとしての魅力を損なわせる要因になることも事実。F1がいい例だと思います。実際、現在のNASCARは資金力のあるビッグチームしか優勝できないほどになってきており、今後もこのような状態が続けば、将来的にエントラントが減少してしまう可能性も大いに考えられます。強烈な発言力でシリーズを統括してきたNASCARの今後の舵取りが注目されます。