<US-RACING>
トラブルとアクシデントによってスタートからわずか5周で、予選トップ3が後退してしまう波乱の幕開けとなったサンノゼ・グランプリ。最後にレースを制したのはスタート直後にフロント・ウイングを壊し、最後尾まで順位を落としたロバート・ドーンボスという、誰も予想がつかない驚くべき結末だった。1周目の混乱でラップ遅れ寸前に陥った15番手スタートのドーンボスは、14周目に起きたコーション中にピットへ飛び込み、戦略を変更。これが大どんでん返しへの布石となった。41周目から上位陣による1回目のピット・ストップが始まると、戦略変更の恩恵でトップに浮上したドーンボスは猛然とスパートをかける。2番手のニール・ヤニより1周1秒以上速いラップを刻みながらリードを拡大し、上位陣の13周後に行ったピット・ストップを終えてコースに戻ると、なんと3番手までジャンプアップ。最後のピット・ストップはコーションが重なり、トップ2と同じタイミングとなってしまったが、13周分多い燃料を積んでいたドーンボスにとっては逆に好都合だった。通常より2秒早く燃料補給を済ませることができ、レース・リーダーとしてコースに復帰を果たす。リスタートではいったんヤニの先行を許したものの、勢いに乗るドーンボスは96周目にコース上でヤニをオーバーテイク。再びトップに返り咲いてからはハイペースで逃げ、ヤニを6秒も引き離して大逆転の今季2勝目を手に入れた。「難しい週末の後だから最高の気分だよ。とにかく今週はすばらしいフィニッシュになった。残りのシーズンもこんな感じで行きたいね。みんなのモチベーションも一気に上がったから、チームにはとても感謝しているよ」と大喜びのドーンボス。最も順位を上げたことでボーナス・ポイントも獲得する。チャンピオンシップではブルデイとのポイント差を一気に10点縮め、後半戦の出だしを最高の形で締めくくった。
キャリア初優勝が幻となってしまったニール・ヤニ。レース序盤の混乱によって2番手に浮上していたヤニは、トップを走るオリオール・セルビアをぴたりとマークし、34周目のターン1でセルビアを豪快にパスしてみせる。一躍トップに躍り出たヤニは力強いパフォーマンスでじりじりとセルビアを引き離し、早くも初優勝の期待が高まった。ところが1回目のピット・ストップを終えた時点から、徐々に雲行きが怪しくなる。不運なことにブラック・タイヤでのマシン・バランスが思わしくなく、66周目にはセルビアの先行を許し、背後からはピット戦略を変更したドーンボスが迫ってきた。2回目のピット・ストップでセルビアをかわし、83周目のリスタートではドーンボスまでオーバーテイクして再びトップに立ったヤニ。だが、今度は付け替えたレッド・タイヤの磨耗が早かったため、持ちこたえることが出来ず、96周目にドーンボスの逆転を許して2位に終わった。「最後にタイヤ選択を間違ったようだね。金曜日にここへ来たときは最下位で、土曜日の予選前プラクティスも最下位だったんだ。最後にポディウムに乗れたのはとても嬉しいよ。チームはすばらしい仕事をしたね。でも、たくさんレースをリードしながら、優勝できなかったのはかなり残念だよ」と今週末を振り返るヤニ。終始レースを優位に進めながら、今日はミナルディ・チームUSAの巧みなピット戦略と、タイヤ・チョイスに翻弄されてしまった。
この日、もっともレースをリードしたオリオール・セルビアは3位に終わった。1回目のリスタート直前、前を走るダン・クラークがトップのジャスティン・ウイルソンに追突し、漁夫の利でリーダーになったセルビア。ルーキーからのプレッシャーに耐えながら42周のリード・ラップを獲る。しかし、今日のセルビアには優勝を手に入れられるだけの幸運が備わってなかった。トップで迎えた2回目のピット・ストップは、インパクトレンチのトラブルで3番手に後退。リスタートでもパワー・トゥ・パスを20秒近く残していたにもかかわらず、前を走るマシンを捉えきれないまま、惜しくも3位でフィニッシュした。「週末を通して僕たちの強さを見せることができたね。エドモントンではピットでたくさん順位を上げたけど、今日は最後のピットで順位を落としてしまった。勝てるレースだったからショックだね」と落胆するセルビア。優勝が見えていただけに残念な結果になってしまったが、これだけの成績を残せているドライバーに開幕戦のレギュラー・シートがなかったとは、今では想像も付かない。
苦戦を強いられた3年連続チャンピオンのセバスチャン・ブルデイ。スタートは抜群の飛び出しでウイルソンからトップを奪うが、ターン2で外側にはらんでしまい、再び2番手に後退する。さらに最初のコーションで燃料をセーブすることに気をとられすぎたあまり、低い回転数のまま7速につないで一瞬だけエンジンをストールさせる今までのブルデイには見られなかった凡ミスを犯してしまう。何とか立ち往生は免れたものの、8位まで順位を落とした。2年連続ウイナーの名にかけてどんどん追い上げたくとも、今週末ずっと付きまとわれているブレーキ・トラブルが足かせとなり、コース上で前のマシンをパスすることができない。ピット戦略とライバルの脱落によってトップ5フィニッシュの面目を保ったが、今日のブルデイには5位が精一杯の結果だった。チャンピオンシップでは依然トップを堅持しているが、このレースを制したロバート・ドーンボスが10ポイント差まで肉薄。ブルデイの前でフィニッシュしたパワーもわずかだがポイント差を縮めている。前人未到の4連覇まではまだまだ茨の道が待っているようだ。
今シーズン2回目のポール・ポジションからスタートしたジャスティン・ウイルソン。スタートでブルデイの先行を許すも、ターン2の出口で刺し返してすぐさまトップに返り咲く。2周目で最大のライバルとなるはずのブルデイが後退したため、ウイルソンにとっては楽なレース展開に持ち込めるはずだった。しかし、悲劇はコーション中の4周目に起きる。リスタートを有利にするためにペースをコントロールしていたウイルソンに、あろうことか2番手のダン・クラークが追突して右リア・タイヤに大きなダメージを負ってしまう。ドライブ・シャフトにまでダメージが及んでいたマシンは、このままでレースを戦えないことが一目瞭然だった。だが、タイトル争いのためにも何とかポイントが欲しいウイルソンとチームは、必死の修復作業を試み、20周遅れでコースに送り出した。この時点でどれだけのポイントが獲れるかは不明だったため、チームは最速ラップのボーナス・ポイントを狙い、ウイルソンが鬼神の走りで49秒589のタイムを叩き出した。最終的な順位も13位まで上げて、合計9ポイントを手にすることになった。
チャンプ・カーではサンノゼ・グランプリ初披露のスタンディング・スタート。シリーズ随一の狭さで知られるサンノゼのストリート・コース目一杯に広がって、タイトなターン1に飛び込んでいく。計5回のコーションが発生し、例年通りアクシデントが多発した今年のレースだが、過去2年とは結果がまったく異なり、ルーキーのロバート・ドーンボスが今シーズン2勝目を大逆転で飾る。詰め掛けた観衆はチャンプ・カーの醍醐味を大いに楽しむことになった。
ダン・クラークとの接触の影響から14周目にクラッシュしてしまったキャサリン・レッグ。ここ数戦はチームメイトであるブルーノ・ジュンケイラの活躍に引っ張られるようにして、速さを見せているものの、トラブルなどの不運に見舞われることが多く、なかなか結果が出せていない。それでもニューマシンになってからの彼女は確実に成長しているといえる。昨日の予選も結果だけを見れば16位だが、トップとのタイム差は1秒を切っていた。昨年まで使われていたシーケンシャル・シフトのローラでは考えられないほど、トップとの差が詰まりつつある。今日は残念な結果に終わったが、歯車がかみ合えば上位進出も夢ではない。
チャンプ・カーの前座で行われているアトランティック・チャンピオンシップは、最終戦のロード・アメリカを残し、早くもラファエル・メトーのシリーズ・チャンピオンが決定した。ブラジル人のメトーはここまで行われた11戦中、開幕3連勝を含む6勝を挙げており、圧倒的な強さを見せていた。シーズン中盤からルーキーのフランク・ペレラがメトーを猛追し、タイトル争いはヒートアップしていたが、ペレラの追撃を見事に退け、メトーは参戦2年目でのタイトル獲得を実現。賞金200万ドル(1ドル120円で2億4千万円)を手に入れた。今シーズンのチャンプ・カーでは、昨年のアトランティック・チャンピオンであるシモン・パジノウが、ルーキー・イヤーから大活躍しているため、このメトーもステップ・アップを果たせば、活躍することは間違いないだろう。
今日、最後のコーションの原因を作ったアレックス・フィギー。今シーズンこれで5レース目となり、2レースに1回はこのフィギーがどこかで止まっていることになる。時にはマシンを大破させてしまうクラッシュもあり、いまやクラッシュ・キングになってしまった。今日もターン3という珍しい場所でスピンを喫してしまい、ウォールに張り付いていた。
前戦のエドモントンに続いて開催されたフェイス・オブ・チャンプ・カー。今年のミス・サンノゼ・グランプリはマリベル・サルガドさん(写真左から2番目)が、その栄冠を勝ち取り、最終戦フェニックスでのグランド・フィナーレに出場することになった。今年のファイナリストや、昨年のフェイス・オブ・チャンプ・カーに輝いたローレン・ガードナーさんとともに記念撮影するサルガドさん。実は2005年にも出場して3位となり、そのため昨年は出場資格がなく、審査委員として参加していた。しかし、今年新たに出場するチャンスを得ると2年越しの優勝を手にした。
決勝日も抜けるような青空が広がり、過去2年と同じく天候に恵まれたサンノゼ。気温はレース中に27度にまで達し、歩き回ると汗をかくほどの陽気で、訪れた観客も暑そうにレースを眺めていたのが印象的だった。アイランドに設置された表彰台越しには、ヒルトンホテルやIT関連の企業が詰まった高層ビルが見え、改めてシリコン・バレーの中心都市でレースをやっていることを認識する。今年もグランド・スタンドいっぱいの観客が足を運び、3年目のサンノゼ・グランプリは大成功に終わった。