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アメリカン・ル・マン・シリーズ 第1戦 セブリング[決勝]フォト&レポート

<US-RACING>

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大雨に見舞われた昨日と打って変わり、みごとな快晴に恵まれた土曜日のセブリング。レースは予定どおり午前10時すぎにグリーンフラッグとなり、32台がいっせいにターン1へ向かう。LMP1クラスが4台にLMP2が9台、GT1が3台、GT2の16台が無事にスタートを切り、12時間先のゴールを目指した。各クラスのウイナーを中心に、劇的な展開となった第55回のセブリング12時間をレポートしよう。

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今回最も素晴らしい結果を達成したのが、ALMSのデビュー・レースで、いきなりクラス1-2フィニッシュを飾ったアキュラ。二日前の会見でHPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント)社長のロバート・クラークが、「いい結果を期待している」と語っていたが、まさかここまでの活躍は誰も予想していなかったに違いない。スタート直後からポルシェ勢に食らいついていたアキュラ勢は、じりじりと離されながらも、その時が訪れるのを待っていた。レース開始から40分、立て続けに起きたポルシェ勢のトラブルに乗じて2番手と3番手に浮上し、バッテリー交換を強いられた#7のペンスキー・ポルシェをAGR(アンドレッティ・グリーン・レーシング)のブライアン・ハータがオーバーテイク。レース・デビューからわずか3時間17分で、アキュラがクラス・トップに躍進する。HR(ハイクロフト・レーシング)とFR(フェルナンデス・レーシング)もAGRに続き、レース開始から約4時間後の午後2時7分の時点で、アキュラがクラス1-2-3を独占することになった。

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トラブルが相次ぐポルシェとは対照的に、アキュラ勢は快調そのものに見えていたが、実はぎりぎりの綱渡り状態で、「運が良かった。12時間はほんとうに大変でした」とHPDの坂本泰英は振り返る。午後3時26分にHRのデイトン・ダンカンが、最も恐れていた電気系トラブルを抱えて長い間ピットに留まらなければならず、後退。スターターにもトラブルが発生してしまった。また、耐久レースに慣れていないアドリアン・フェルナンデスやトニー・カナーンも、周回遅れをパスする際に接触を喫して、マシンにダメージを負っていたという。そして迎えた最後の2時間、午後8時12分にカナーンからハータに交代し、総合トップのアウディと同一周回につけていたハータに、まさかのギアボック・トラブルが発生。その後ピットのたびにオイルを注ぎ足してはみたものの、341周目のピット以降パドル・シフトがうまく動かなくなり、「ハータはごまかしながら、最後までがんばって走ってくれたんです」と坂本は真相を漏らした。

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レース終盤、1秒以上速いペースで#6のペンスキー・ポルシェが迫る。残り35分、再びシフト・トラブルでAGRがイレギュラーなピット・ストップを行ったが、結局アキュラは1-2体制を保ったまま、ポルシェの追撃を振り切ってフィニッシュ。日本以外で初めて作られたホンダのアメリカン・レーシング・エンジンは、デビューの日に歴史的な勝利を遂げたのである。「言葉にならない。今まで経験した中で一番感動した」と初勝利を表現するクラーク。「このプログラムのために、ほんとうに大変な仕事をこなしてきた。それはHPDに限らず、アキュラ、チーム、スポンサー、ドライバー、このプログラムにかかわるすべての人にとって、長い道のりだったんだ。この夢のような結果に、感情的にならずにはいられないよ」と男泣き。

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「チームにはほんとうに頭が上がらない」と話すのは、優勝したAGRのアンカー、ブライアン・ハータ。「僕は、こんなに一生懸命に働き、努力するチームを今まで見たことない。僕たちがテストのときに、どれだけ多くのトラブルを抱えていたかを信じてはくれないだろうけど、そのテストのおかげでここにいて、僕たちにこの結果をもたらしてくれたんだ」。実は、主催者であるALMSは、1月末になって急遽エタノールを10%加える燃料にレギュレーションを変更。HPDはそれに従って改良してきたものの、ポルシェは間に合っていなかった。クラークやハータが言うように、この奇跡的な勝利は全員が最大限の力を発揮したからこそ実現したもので、ポルシェに運がなかったからではない。このレースで勝つべき存在、それはアキュラのALMSプロジェクトに関わった全員であり、彼らの勝利は必然だったのである。

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一方、最後の約2時間前までワンクラス下のアキュラに、同一周回にまで迫られていたアウディ。アキュラがトラブルに襲われたことで、マルコ・ワーナー、エマニエル・ピロ、フランク・ビエラ組が辛うじて総合優勝し、アウディがセブリング8連勝を達成した。レース・スタートからフロント・ロウのアウディが順調に1-2体制を構築し、オープニング・ラップを獲ったのはポール・ポジションからスタートしたカー#2のフランク・ビエラ。その後13分に渡ってトップを快走するが、GT2のバック・マーカーに引っかかったところで、#1アウディのリカルド・カペッロにトップを明け渡す。

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レース開始後40分、#2アウディのピット・ストップ時に、給油担当メカニックがゴーグルを付け忘れる初歩的なミスで20秒の手痛いペナルティーを受け、その40分後に同じく#2アウディのリア・タイヤが脱落するアクシデントが見られたほかは大きなトラブルがなく、#1のアラン・マクニッシュ、トム・クリステンセン、リカルド・カペッロ組みとトップを交互に入れ替えながら、順調に走行していた。しかし開始から5時間が過ぎ、トップを快走していた#1のアラン・マクニッシュがピット・イン。イグニッションのトラブルでピット・ストップを強いられ、このレースで初めてアウディが大きな問題に直面した。

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これでトップに立ったのは#2アウディで、幸いレース序盤のマイナー・トラブル以降大きなトラブルは発生せず、トップを堅持。だがすぐ背後にLMP2クラスのAGRのアキュラが同一周回まで迫り、FRのアキュラがその後に続く。単独トップの#2アウディに、もし#1と同じようなトラブルが発生した場合、首位はすぐに入れ替わる緊迫した状況だったが、不運にもトラブルが発生したのはAGRのほうで、追撃はここまで。後退を余儀なくされたAGRのアキュラを尻目に、#2アウディが55回目の12時間ウイナーに輝いた。トラブルに泣いた#1アウディは、耐久レースで幾度となく修羅場を潜り抜けてきただけあって、15分のピットストップだけでコース上へマシンを戻すことに成功。7番手まで後退した後、1分46秒634のファステスト・ラップを刻みながら猛追するが、AGRとFRのアキュラには及ばず。最後は4位でフィニッシュした。

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予選までは極めて順調だった、参戦2年目のポルシェ勢。ポール・ポジションのティモ・バーンハードがLMP2クラスのトップでオープニング・ラップを駆け抜け、磐石のスタートかと思われたが、徐々に歯車が狂い始める。開始から40分、#6ペンスキーのサーシャ・マーセンがブレーキ・ホースのトラブルを抱え、長いピット・ストップを強いられた。続いてダイソン・レーシングのクリス・ダイソンが、GT2クラスのパノスと接触。ガレージに戻ってエキゾースト修理を行う羽目になる。そしてLMP1のアウディと総合トップの座を争っていた#7のペンスキー・ポルシェにまで、バッテリーのトラブルが発生し、今週一度もクラス・トップの座を譲らなかったポルシェが、ついにAGRアキュラにその座を明け渡すことになった。

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一度失ったリードは取り戻しがたく、アキュラの先行を許した昨年のLMP2チャンピオン。#7ペンスキーは復帰してポルシェ勢のトップを走るが、その後もバッテリー・トラブルに見舞われ続ける。アキュラよりも1秒以上早い1分47秒103のタイムをマークして周回を重ねるも、最後まで追い上げることが出来ずに総合5位、クラス3位でレースを終えることになった。テスト・タイムや予選でもLMP1のアウディを脅かす勢いがあっただけに、ポルシェ陣営の落胆はさぞ大きかっただろう。

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アキュラの他に、マツダも参戦していたLMP2クラス。ALMS参戦3年目を迎えるBKスポーツは、3月4日にニューマシンをシェイクダンしたばかりだった。ローラのニューシャシーにマツダ・エンジンとクムホ・タイヤを組み合わせたこのパッケージは、予選を12番手、LMP2クラス最後尾で通過。迎えた決勝は準備不足が露呈してか、トラブルの連続だった。開始18分にルイス・ディアスが乗るフェルナンデスレーシングのアキュラと接触。両者にダメージがないというレポートだったが、開始から45分後、デヴリンのマシンはリア・カウルを外さなければならなかった。その6分後に燃料センサーのチェックで再びピット・イン。同じく燃料センサーのチェックで午前11時47分に再度ピットインし、そのまた16分後には、スロットル・リターン・スプリングを交換するためにピットへ戻ってきた。
これでようやく順調に走り始めたかと思われた午後12時48分、今度はゆるゆるとスローダウンしながら再度ピットに戻り、そのままガレージへ。スロットル系のトラブルで2時間近く修理を行い、開始から4時間25分、ジェイミー・バックから交代したベン・デヴリンのドライブでコースに復帰した。午後5時に入るとコンピューターにもトラブルが発生し、ソフトウエアを何度もダウンロード。午後5時56分には再びスロットルのトラブルで1時間30分以上のピットストップを強いられることになった。さらには燃料補給時に担当メカニックがゴーグルを付け忘れて20秒のペナルティを受け、チームにとっては散々な12時間となったが、諦めずにゴールまでマシンを運んだチームの努力を賞賛したい。

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ドライバとチームの両タイトル防衛を狙うGT1クラスのコルベット・レーシング。予選からライバルのアストン・マーチンをコンマ8秒近く引き離す速さを見せ、決勝でもそのパフォーマンスはゆるぎない。ポール・スタートの#3コルベットを駆るロン・フェロウは、うまくスタートを決めてオープニングラップを獲得。トラブルを抱えるアストン・マーチンを尻目に、コルベットの2台は1-2体制を保ってラップを重ねていく。12時間の長丁場レースにもかかわらず、コルベットの2台に深刻なトラブルが何一つ発生することなく、そのままフィニッシュ。オリバー・ガービン、オリビエ・ベレッタ、マックス・パピス組みが優勝を飾り、コルベットにとっては6年間で5回目のクラス優勝に輝いた。

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12時間のレースを難なく乗り切ったコルベット勢の目は、すでにその先のル・マン24時間レースに向いているようだ。「みんなも知ってのとおり、セブリングはタフなトラックで、ル・マンに向けて良いテストになるんだ」と優勝したベレッタ。「僕たちはとても良い仕事をしたし、いつも通りすばらしいピット・ストップを行った。マシンはレースの最後でも、まるで1周目のように良い感触だったんだ。このチームは何をすべきかを正確に知っている。#3のマシンは強い競争力があるから、僕たちは自信をもってプッシュした。すべてが完璧に行ったよ」

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アキュラの初優勝に負けず劣らず、最後まで白熱のレースを展開したのがGT2クラスだ。フェラーリとポルシェが激しいデッドヒートを繰り広げ、それぞれ最終スティントを任されたフェラーリのジェイミー・メロと、ポルシェのジョージ・バーグメイスターが最終ラップまでトップを争った。レースは終盤になってブレーキにトラブルを抱えたメロを、バーグメイスターが猛追。残り11分の時点で5秒あった2台の差は瞬く間に縮まり、最終ラップでは完全なテール・トゥ・ノーズとなる。何とか前に出たいバーグメイスターはメロに猛アタックを掛け、2台が接触する場面も。しかしメロはバーグメイスターの猛攻を最後まで退けて先にフィニッシュ。二人の差はわずか0.269秒という、実況が大絶叫の結末となった。もちろん0.269秒の差は55年のレース史上、一番接近したフィニッシュだ。

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「信じられないくらい、すばらしい最終ラップだったよ」と興奮して語るメロ。「こんなフィニッシュは経験がないね。終盤、ブレーキにトラブルがあった中で、何とか安定したペースを保とうとした。バーグメイスターはバックストレートで僕に追いつき、僕は少し早めにブレーキを踏んだ。17コーナーの立ち上がりでは、できる限り早くスロットルを開いたんだ」と最終ラップの接近戦を振り返った。