朝方はジャケットが必要なほど寒かったが、昼ごろには快晴となり、絶好のレース・コンディションとなったデイトナ。168000もの観客席は今年もフルに埋まり、49回目のレースは午後3時31分にグリーンフラッグとなる。ポール・ポジションからデビット・ギリランドが好スタートを見せ、レースの序盤をリード。デビュー・レースのトヨタ勢は不正発覚騒動に揺れたマイケル・ウォルトリップが最上位で8列目15位、モントーヤは18列目36番グリッドからスタートした。
大きなクラッシュもなく、順調に進んでいたレース。この日最初のビッグ・アクシデントは、トップ争いをしていたトニー・スチュワートとカート・ブッシュによるもので、終盤に入ろうとしていた残り47周、午後5時46分のことだった。トップを走っていたスチュワートのリアが突然アウトに流れ、そこにブッシュが接触。壁に激突したスチュワートはリタイアを余儀なくされ、マシンにダメージを負ったブッシュはガレージに入って修復を試みるが、レースに復活することはできなかった。
さて、長い間コテコテのアメリカンだったNASCARの世界で、トヨタは実に1958年以来となる国外メーカーの参戦だそうだ。グレッグ・フィールデンの“ストック・カー・レーシングの40年”によると、その昔レースが行われていたリバーサイドのロード・コース・イベント(クラウン・アメリカ・インターナショナル・ストック・カー・レース)に参戦した2台のシトロエン、ルノー、ゴリアテと4台のヨーロッパ車がエントリーしたのが最後だった。シトロエンやルノーといったフランス車がいたのは驚いたが、ゴリアテってなんだろう? Giliathと書くのだが、このまま辞書で引くとゴリアテと出てくるではないか。え、巨人だって? 英語読みではゴライアスとも言うらしいのだが、こんな自動車メーカーなんて聞いたこともなく、隣のアメリカ人記者も解からない。で、検索に次ぐけんさくでやっと見つけたら、なんとドイツのメーカーで、1961年に倒産していたのだった。これじゃ解かりません。でもネットってホント便利です。まさにご利益あり!
最後は48歳の大ベテラン、マーク・マーティンが逃げ切り、23回目の挑戦で念願のデイトナ500初優勝かと思われたが、アウト側からケビン・ハービックがじわじわとスピードを上げて鼻先ゴール。その後では2番手と3番手が接触してスピンし、後続も巻き込んだ多重クラッシュが発生して大波乱のフィニッシュとなった。
3時間30分以上の長丁場を制したハービックは、「冬の間にゴーカートをやっていてけど、その経験が役に立ったよ。ずっと踏みっぱなしで、いつも何かにぶつかっていたし、ウォールに跳ね返されたりしたからね」と言うバービック。「でも、これがデイトナー500なんだよ。信じられる?」。昨日のブッシュのレースに続く連日制覇と、最高のシーズン・オープニングとなった。最後は完全なナイトレース状態で、朝のような寒さが復活。しかしビクトリー・サークルは大興奮状態で、熱気むんむんでした。
大注目のルーキー、モントーヤはレース前に「完走を狙う」と宣言し、その言葉どおり堅実なレース展開で19位フィニッシュ。「スタートがダメだったよ。車が思うどおりに曲がらなくて、本当に苦しかった。車の調子が悪かったし、どうしてこうなったか分からないね」と絶不調だったが、アクシデントに巻き込まれることなく、しっかりゴールしたのはさすが。それにしても、NASCARのプレスルームでスペイン語が飛び交うようになるとは。メディアもさることながらファンも多く、NASCARとは思えないような光景を目にした。モントーヤ効果は絶大で、これから南米のファンが増えるのは間違いない。
昨年、トラック・シリーズ参戦3年目にして、マニュファクチャラーとドライバーの両タイトルを獲得したトヨタ。最高峰にステップアップして迎えた最初のレースだったが、チームの不正が発覚するとんでもない事態となる。それも2度デイトナ500を制覇したマイケル・ウォルトリップのクルマで、10万ドルの罰金と100ポイント減点、クルーチーフ&レース・ディレクターの無期停職という厳しいもの。インテーク・マニホールドに違法な物質が見つかり、NASCAR側によればチームが独自にやったもので、トヨタの関与はないと説明。しかしトヨタにとって辛いスタートとなったのは事実だ。今回はトヨタ以外にもジェフ・ゴードンが車高足らずで予選失格になるなど、5チームの違反が発覚する異常事態となった伝統の一戦。シリーズのメインイベントで勝ちたい気持ちは解かるが、少しヒートアップし過ぎかもしれない。挽回を狙うトヨタ勢は金曜のトラック・シリーズのレースでワンツーを決め、同じエンジンを使うブッシュ・シリーズの土曜のレースでは、初参戦ながらみごと2位に入った。好調を維持して迎えた日曜日、最高峰ネクステルカップのレースだったが、トラックやブッシュとは異なる新エンジンということもあり、22位のデイル・ジャレットが最高位に終わる。なんでも昨年トラックで勝ちすぎたことから、カップのエンジンは主催者に改良(改悪?)するよう言われたとのこと。「パワーを出さないための開発なんて・・・」とエンジニアも頭を抱える。波乱とともに幕を開けたトヨタ、その道のりは長く険しいものになりそうだ。
F1で大忙しの木下さんが、久しぶりに古巣(?)のアメリカへやってきた。1996年のCART初年度からTRD USAを率いていた木下さん(左)が、アメリカにいる間に始まったNASCARのプロジェクト。今は竹内さんがそのあとを引き継いでいる。木下さんは「やっぱりアメリカは雰囲気が良いねぇ」と開口一番。「やってる人が楽しそう。F1はやってる人がそんなに楽しい顔をしていない」としみじみ。「また戻ってきたいねぇ。代わろうか」と竹内さんをうらやましそうな表情で見る。一方の竹内さんは「今年36戦全部行こうと思ってます」と言い、「ブログでもやろうかな」と楽しそう。「NASCARはF1の対極にあるレースで、足して2で割るとちょうどいい」と木下さんは言う。今年こそF1で初優勝し、竹内さんがうらやましがる時が来るといいのだが。