第89回のインディ500を制したのは、今一番勢いに乗っているウエルドン。セント・ピーターズバーグから、もてぎも含めて3連勝を飾った。チームメイトのカナーンはポールを獲得して8位でフィニッシュしたのに対し、ウエルドンは安川のひとつ前となる16位からのスタート。栄光のミルクを飲むことになったのは昨年のチャンピオンではなく、ウエルドンだった。インディ500のウイナーはいつからか、スタート&フィニッシュラインにキスをするのが恒例となっており、ウエルドンもウイナーズ・パレードが終わると、今まで約380キロで通過していたレンガにキス。1966年のグラハム・ヒル以来となるイギリス人ウイナーの誕生だ。
5月8日のルーキー・オリエンテーション・プログラムからスタートした第89回インディ500が、今年のメモリアルデイ(戦没将校記念日)ウイークエンドとなる29日、決勝日を迎えた。昨年は雨に翻弄されたレースデイとなったものの、今年は朝からみごとな快晴に恵まれる。長年に渡って午前11時のスタートだったレースは、今年から午後12時にグリーン・フラッグとなり、全車がきれいにスタートを切った。以前は40万人を超す集客数があったが、1996年の分裂以降年々観客動員数は減っており、10年目の今年はターン2やインフィールドの観客席にも空席が目立つようになってしまった。11年前は満席どころか、インフィールドやコース場の外にも観客があふれ、40万という数字に誰もが納得していたものだ。少なくはなっているが、25万もの観客席がこれだけ埋まっているレースは、世界中どこを探してもこのインディアナポリス・モーター・スピードウエイしかない。このメインスタンドが埋まらなくなるような日が来ないように、なんらかの手を打たなければならないのではないか。
2年目のインディ500となった松浦。昨年は11位でフィニッシュし、インディ500のルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。今年はさらなる上位フィニッシュを目指してレースに挑んだが、レース終盤となる186周目にターン4でクラッシュし、無念のリタイアで17位となった。予選8位からスタートした松浦は、レース序盤1回目のピットストップで、ダウンフォースを変更するために時間がかかって大きく後退。しかし長丁場となる500マイルレースで終盤となる175周目には、7位までポジションアップしていた。終盤を迎えた186周目、9番手を走行してトップ10フィニッシュは確実、トップ5以内にもいけるかと思われていた矢先のこと、「レース終盤になってトラフィックでのハンドリングが変わってきて、最後は突然ハンドルを持っていかれました。それまでにもフロントが流れたりと、その傾向があったのですが、最後だけは自分でもコントロールすることができませんでした」と松浦は状況を話す。シリーズの山場は過ぎたが、レースは残り12戦もある。次戦からの飛躍を期待したい。
17番手からスタートした安川は、167周目にクラッチとエンジンのトラブルによってリタイアを余儀なくされ、3年目のインディ500を終えた。オープニングラップから1回目のピットストップまでは順調だったものの、それ以降クラッチに異変が発生。その後のピットストップでは、クルーによる押しがけでピットアウトしなければならない状況となる。クルーの安全を確保するため、ピットインのタイミングも他のドライバーとずらさなければならず、チームの作戦はより複雑になった。「それでも、自分のペースを守っていけば10位か12位くらいまでにはいけると思っていましたが・・・・・・。おそらく、クラッチのトラブルがエンジンに負担をかけることになったんだと思います」と安川はレース後に説明。マシンは白煙を上げながらピットに向かうことになった。この日、エンジンのトラブルでリタイアとなったホンダ・ドライバーは安川だけ。過去にインディでは10位を2回記録してきたが、今回が初のリタイアとなる。安定した走りが持ち前の安川でも、もてぎ同様、マシンのトラブルだけは避けられない。もてぎ、インディと重要なレースで2戦連続のマシントラブルだけに、本人も落胆を隠せなかった。このような状況をなんとか打破し、次戦のテキサスからはトラブルの無いマシンでレースに挑んで欲しいところだ。
チャンプ・カー・ワールド・シリーズに参戦しているニューマン/ハース・レーシングが今年もインディ500にスポット参戦した。昨年はジュンケイラが5位でフィニッシュしたが、タイミングさえよければ優勝していた可能性もあっただけに、注目があつまる。昨年のチャンピオン・ドライバー、ボウデイも参戦して2台体制でインディに挑んだ今年、ジュンケイラは76周目に周回遅れのA.J.フォイト?と接触。ターン2のセーファー・バリアに激突してリタイアとなり、背中を損傷して次のミルウォーキーは絶望的になってしまった。一方、ボウデイはレース残り2周となった時点で5番手を走行していたが、198周目にターン4で痛恨のクラッシュに終わってしまう。開催期間中にチャンプ・カー第2戦モンテレイがあり、練習走行時間が限られていた中で、高いレベルでの走行を続けていた二人。リタイアしたものの、今年のレースを盛り上げたのは間違いない。来年はもっと多くのチャンプ・カードライバーに参戦してほしいところだ。
155周目のリスタートの時にターン4でパトリックがハーフスピンを喫し、これをきっかけに複数のマシンがクラッシュ、リタイアとなった。このアクシデントでシボレーのレギュラー・ドライバー、シェクターとエンゲがリタイアに追い込まれてしまう。5台参戦していたシボレー勢だったが、これでパンサー・レーシングからスポット参戦していたバディ・ラジアのみ。2000年のシリーズ・チャンピオンで、1996年のインディ500ウイナーは確実に同一周回に留まり、5位でフィニッシュする。インディ500参戦12年目となるベテラン・ドライバーが生き残った。
トヨタのトップとなったのは2度のインディ500ウイナー、カストロネベス。唯一、同一周回に残って9位でフィニッシュした。予選2位からスタートし、77周の最多リードラップを記録したホーニッシュJr.は、6番手を走行していた146周目にボウデイとサイド・バイ・サイドでターン1に侵入し、ターン1でコントロールを失うとセーファー・バリアに衝突、無念のリタイアとなった。昨年に続き、今年もリタイアに終わったホーニッシュJr.。2001、2002年の2年連続シリーズチャンピオンは、チーム・ペンスキーというトップチームに移籍してもなかなかインディ500で勝つことは難しい。
2003年のレギュラードライバーとしてチーム・レイホールから参戦していたブラックは、最終戦で激しいクラッシュを起こし、2004年は療養に専念。代わりにバディ・ライスが参戦することになり、インディ500で優勝する快挙を成し遂げた。そのライスが今年はプラクティスでクラッシュし、インディ500に参戦出来なくなると、再びブラックがステアリングを握ることになる。レースはスタートから順調そうに見せたが、サスペンションのウィッシュボーンを固定しているボルトのひとつが緩み、何度かピットへ戻って修復を試みるも99周目にリタイアを余儀なくされた。一方、人気を独り占めしていたパトリックは、女性ドライバーとして初めてインディ500でレースをリードし、レース後半はトップ争いを演じるパフォーマンスを見せた。トップとなったときはコースに歓声がこだまし、初の女性ウイナー誕生を応援。惜しくも4位でフィニッシュすることになったが、ルーキーではトップとなり、インディ500でのルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。
決勝日の翌日、スタート&フィニッシュラインで、恒例の優勝者記念撮影会が行われた。朝のうちは雨が降り、撮影が行われるかどうか心配していたが、始まる頃には雨も止んで青空が広がっていった。今年もホンダが優勝し、トップから4位までを独占。ホンダにとって2年連続優勝となる。アンドレッティ・グリーン・レーシングにとっては、初のインディ500優勝。撮影の最後に、今度はチーム全員がレンガに勝利のキスをした。