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チャンプ・カー・ワールド・シリーズ 第1戦 セント・ピーターズバーグ【決勝】レポート

<US-RACING>

トレイシーがベテランらしい走りを見せて20勝目

快晴のもと午後1時にグリーンフラッグとなり、注目の開幕戦がスタート。ボウデイがポールポジションから快調にレースをリードしていたが、ピットインの直後、まだ暖まっていないタイヤでコントロールを失い、壁にタイヤを接触させてしまう。これで難なくトップに立ったトレイシーはベテランらしい走りでトップを守りきり、見事20勝目を獲得。2位はジョルダイン、3位はジュンケイラと経験豊富なレギュラー陣が上位を独占した。

決勝レースが行われた日曜日は好天に恵まれ、雲ひとつない快晴となった。朝のウォームアップでは予選2番手のトレイシーがトップ・タイムをマーク。午後の決勝レースに向けて好調ぶりを見せる。朝から日差しは強かったものの、セント・ピーターズバーグのダウンタウン周辺の気温は午後になっても摂氏17度、湿度も50パーセント前後とこの3日間の中で最も凌ぎやすい陽気だ。

今回のグランド・マーシャルを務めるのは2003年のスーパーボウル・チャンピオン、タンパベイ・バッカニアーズのフル・バック、マイク・アルストットとワイド・レシーバーのジョー・ジュレビシャス。両選手による“ジェントルマン・スタート・ユア・エンジンズ!”の掛け声を合図に全車一斉にエンジンを始動し、ペースカーの先導で19台のマシンが次々とコースイン。午後1時ジャスト、1993年のシリーズ・チャンピオン、ナイジェル・マンセルのアシストでグリーン・フラッグが振り下ろされ、2003年の開幕戦決勝がスタートした。ポール・ポジションのボウデイを先頭にトレイシー、フェルナンデスがターン1を目指す。

オープニング・ラップのターン1で、ボウデイに次ぐルーキーのスタートポジションを得た(6番手)ハバーフェルドが、7番手スタートのジュンケイラのマシンをブロックするかたちでコーナーへ侵入。2台はコーナーをオーバーランするが、これによる順位の変更はなし。オフィシャルはハバーフェルドの“ブロッキング”行為に対し警告を発した。4周目、タグリアーニのマシンがターン4のタイヤバリアにノーズから突っ込みストール。タグリアーニはこのままリヤイアし、オフィシャルはこの日最初のフルコース・コーションを提示した。

このフルコース・コーションで早々とピットインしたのは急遽フィッティパルディのチームから参戦が決まったモンテイロと、スイス人のカマティアスのルーキー・コンビ。コースがクリアとなった9周目、グリーン・フラッグでレースは再開。再スタートをうまく決めたボウデイはファステスト・ラップを記録し、2位トレイシー以下との差を広げようとしている。13周目、ゴンザレスをオーバーテイクしようと、ターン10の入り口でブレーキをロックしてしまった予選最下位のラビンがスピン。ラビンのマシンがコース上にストールしてまったため、ここで2回目のフルコース・コーションが出された。ルーキーによるミスが目立つ。

16周目でグリーン・フラッグとなるが、この周回で元BARのテストドライバー、ルマリーがターン12で単独スピンしてしまったため、即座にフルコース・コーションが再提示される。この3回目のコーションにおいて、トップのボウデイと3位フェルナンデス、それに2回目のフルコース・コーションですでにピットストップを完了していたモンテイロ以外の全員がピットイン。19周目の再スタート時点での順位はボウデイ、フェルナンデス、モンテイロ、トレイシー、カーパンティエのオーダー。ボウデイは2位フェルナンデスとのアドバンテージを周回ごとに広げていき、25周目には5秒以上、28周目にはその差は11秒以上となった。

ファステスト・ラップを更新してトップを快走していたボウデイだったが、その後期待していたコーションはまったく出なくなり、ピットストップが義務付けられている規定の30周目、グリーン・フラッグ下でピットインを強いられ5位でコースへ復帰。その次のラップで7位まで順位を下げる。同じく2位を走行していたフェルナンデスもここでピットイン。こちらは14位までポジション・ダウンとなってしまった。

順位を落としたボウデイは、その圧倒的なスピードで順位を挽回するかに見えた。しかしフルタンクとなったマシンでピット・アウトした直後、まだ暖まっていなかったタイヤによりコントロールを失い、ターン6のコンクリート・ウォールにホイールをヒット。これが原因でスロー・パンクチャーに見舞われるが、それに気づくのに2周以上もかかってしまう。再度ピットインを余儀なくされたボウデイは、最後尾へと順位を落とすしかなかった。

ここで31周目にトップに立ったのは、最初のコーションでピットインを済ませていたルーキーのモンテイロだったが、2位に上がったトレイシーがぐんぐんと差を縮めてくる。34周目、モンテイロの背後に迫ったトレイシーとカーパンティエは一気にこれをパス。プレイヤーズ・フォーサイス・レーシングのワン・ツー体制となる。43周目にモンテイロがピット・インすると、順位はトレイシー、カーパンティエ、ジョルダイン、セルビア、ドミンゲスのレギュラー勢で固められた。

30周の規定周回数を迎えたドライバー達が、46周目にいっせいにピットイン。フェルナンデス、モンテイロ、マニング以外のドライバーが続々とピット・ストップを行う。ここで2位のポジションでコースへ戻ったカーパンティエが、暖まりきっていないタイヤが原因でターン8のタイヤウォールに突っ込んでしまった。エンジンをストールしてしまったカーパンティエはセーフティ・クルーの手をかりて再スタートし、そのままピットインしてダメージをチェック。順位は最後尾から2番目まで後退した。ベテランでもミスを犯すほど、テンポラリーコースの路面の変化は著しい。

このフルコース・コーションではフェルナンデスとセルビアがピットイン。4位を走行していたセルビアのマシンに電気系のメカニカル・トラブルが発生。セルビアはピットイン・アウトを繰り返し、大きく後退してしまう。再スタートとなった52周目でトップの位置をしっかりとキープしたトレイシーは、53周目を終えた時点で2位ジョルダインとの差を4秒以上まで広げる。好調のトレイシーは周回を重ねるごとに2位以下との差を広げていったが、63周目、ヨハンソンのルーキーであるハンター‐レイがターン10の出口でマシン右側をヒットし、フロント・サスペンションを大破するアクシデントが発生。この日5回目のフルコース・コーションが出されると、これまで築いたトレイシーのアドバンテージは一気になくなってしまった。

68周目に再スタートした時点で、トップは依然としてトレイシー。これをジョルダイン、ジュンケイラ、ハバーフェルドが追う。予選3番手からスタートし、レース序盤は2位を走行していたフェルナンデスが、この再スタート後の69周目を走行中、ドミンゲスから接触されてスピン。自力で再スタートしてピット・インしたが、レース復帰を断念。そのままリタイアとなった。

ほとんどのドライバーが最後の規定のピット・ストップを迎えたのは、グリーン・フラッグ下の76周目。ここでピット・ストップのタイミングをずらしているハバーフェルドと、ボウデイの二人を除く全員がピット・イン。ピット・ストップを終えた後もトレイシーのリードは変わらず、2位以下に8秒以上の差をつける。終盤、88周目にトレイシーは最多リードラップで1ポイントを獲得。このあたりで2位のジョルダインがトレイシーとの差を約半分の4秒近くにまで詰めてきた。対するトレイシーはラスト15周のところでペース・アップを図る。

レースも残り10周を切った96周目、予選15番手からスタートしたモレノが前を行くバッサーをパスして5位に浮上。さらに98周目、一時は最後尾近くまで順位を下げていたカーパンティエがカマティアスをパスして8位までポジションアップしてきた。35周目にトップに立ったトレイシーは常に安定したハイペースで周回を続け、そのスピードはファイナルラップの105周目に入っても衰えを見せない。最後は2位ジョルダインに12秒以上の大差をつけて、トップでチェッカード・フラッグを受け優勝。自己通算20勝目を挙げたトレイシーは、嬉しさのあまり大観衆が見守るターン1でスピンターンの“ドーナッツ”を派手に披露。その喜びを全身で表した。

今回のレースでプレイヤーズ・フォーサイス・レーシングのピットクルーは、完走した12台の中で3回のストップ時間の平均タイムが最も短い迅速な作業を行い、優勝に大きく貢献。2位は自己ベスト・フィニッシュとなったジョルダイン、3位はジュンケイラと、昨年までのレギュラー・ドライバーが当然のように表彰台を独占した。ルーキー・ドライバーの最高位はIRLから移行してきたコンクエスト・レーシングのハバーフェルドで4位。完走台数は19台中12台で、合計5人のルーキー・ドライバーがチャンピオンシップ・ポイントを獲得した。

シャシー・メーカー別で見ると、ローラ勢が表彰台を独占し、トップ10に7台が入賞。一方のレイナードは4位以下トップ10に3台が入賞している。昨年同様ローラが好調なのは当然として、今後ウォーカーを中心とするレイナード勢がどのようにキャッチアップしていくかも見逃せない。ルーキーながら初レースでポールポジョンを獲得し、レース中の最速ラップもマークしたボウデイは結局11位でフィニッシュ。初出場でのポール・トゥ・ウィンは果たせなかったが、その実力を十分にアピールし、今後も活躍が期待できる。

昨年いっぱいでレギュラーチームやドライバーが大勢いなくなったことで、いったいどんなレースになるか心配されていたが、実際に蓋を開ければ昨年とはまた違った面白さが待っていた。スーパールーキーのボウデイが、今後ベテラン勢とどのようなバトルを見せるか興味深い。今回のようなルーキーならではのミスが減っていけば、ボウデイはかなり見せてくれるだろう。ベテラン達がそのボウデイに対してどのようなレース運びをするのか、そのあたりも注目したい。他のルーキーも、レースを繰り返すことでその実力が養われていくはずであり、今後の活躍を期待しよう。

それにしても、これが1ヶ月前までなかなかチームが揃わず、その先行きが疑問視されていたCARTだろうか。相変わらず魅力的なストリートコースと、ほとんどのスタンドをいっぱいにした大勢の観客の様子を見ていると、このシーズンオフの様子がまるで嘘のように思えてくる。このセント・ピーターズバーグを主催したのは、かつてプークがいたドーバー・モータースポーツであり、プークを良く知るスタッフはCARTの復活を信じていたからこそ、このような素晴らしいイベントが可能となったのだろう。表彰台の後ろで様子を伺っていたプークのところに、次々と関係者が現れては握手を求めていく。こうして初のレースを無事に終えたプークと新生CARTは、まさに賞賛に値する仕事をした。

「早く次のレースも観てみたい!」。開幕戦を終えた今、このような気持ちになっている世界中のファンはきっと多いことだろう。次回第2戦は一ヶ月後の3月23日に開催される“Tecate / Telemex Monterrey Grand Prix”で、舞台となるのはメキシコ・モンテレイにあるファンディドラ・パークのパーマネント・ロードコース。大人気のメキシコでのレースに、今年も信じられないほどの観客が訪れるのは間違いない。

優勝したポール・トレイシーのコメント
「開幕戦で優勝できたことは、チームにとって最高のスタートだ。このレース・ウィークはずいぶんとハードワークをこなしたね。レース用マシンのセットアップでは、パトリック(カーパンティエ)のマシンからフィードバックをもらった。すばらしい結果に大満足だよ。こんな形でシーズンをスタートできるのは本当に理想的だと思う。マシンはどのタイヤのセットでも十分なパフォーマンスを見せる仕上がりとなり、決勝でもそのポテンシャルをフルに発揮してくれた。レース中盤あたりでミシェル(ジョルダイン)にその差を詰められたが、その差が4秒まで縮まった時、ペースを上げて再び差を広げて行くことが出来た。テクニカル・アドバイザーのトニー・シケイルをはじめ、チーム・プレイヤーズのクルー達こそが今日の勝利の立役者だ。とても感謝しているよ。オール・カナダのチーム・プレイヤーズの一員となれたことを、とても誇りに思う。移籍したチームでの最初のレースで優勝できたことは、とても気分がいいものだ」

2位表彰台のミシェル・ジョルダインのコメント
「2位表彰台はとても嬉しい。今はとてもハッピーな気分だ。レースウィーク中、マシンの調子はとてもよかった。予選ではもう少し、あと2ポジションほど上を狙えたと思う。でもレース結果はすばらしいものだった。次の第2戦のメキシコへ向けて、2位表彰台はとても幸先の良いシーズンの開幕だといえるね。今後の目標として、予選でのポジションをさらに向上し、スターティング・ポジションを上げて念願の初優勝を早く飾りたい」

3位表彰台のブルーノ・ジュンケイラのコメント
「苦難の多い週末だった。金曜日のプラクティスでは2番手のタイムを記録した。しかしレッド・フラッグの影響でベストな結果を残せなかったのは残念だ。土曜日も大変な一日で、ほとんどクリアラップが取れなかったんだ。それでも決勝レースでは良いマシンを手に出来ると信じていた。スタート後、ハンドリングはとても良かったが、最初のピットストップで右側のタイヤ交換に手間取り時間を費やしてしまった。あれで14位まで後退し、それからが大変だった。前を行くライバルたちを一台一台パスして行ったんだが、このコースはパスが困難で順位を上げるのにとても苦労した。ニューマン/ハース・レーシングのクルーはピット作業を迅速にこなしてくれた。ピットのタイミングも良くて、作戦面でチームに助けられたよ。レース終盤は路面がかなり滑りやすくなってきて、加えてブレーキも弱ってきてしまった。とにかく出来るだけジョルダインにプレッシャーをかけようと思ったが、周回遅れをうまくかわせず、ジョルダインとの差が離れ始めた。その時点では3位キープがやっとだったよ。でもこれは決して悪くない結果だとおもう」