1989年以来のレースとなったポコノで、みごとウィナーに輝いたのはスコット・ディクソンでした。ホンダ勢で最上位となる予選7位のスピードながら、エンジン交換によって17番手スタートを余儀なくされた彼は、6周目で早くも10番手に浮上。最初のピットをぎりぎりまで粘り、全車の中で最も長い34周目にピットへ飛び込みます。2回目のピットをコーション中に行い、72周目に5番手にアップしたディクソンは、上位勢がピットへ入った97周目にトップへ躍進。3回目のピットをリーダーのマルコ・アンドレッティよりも5周多く走り、トップのままコースへ復帰します。その後トニー・カナーンやウィル・パワー、マルコらにトップを明け渡すも、最後のピットで再びマルコより5周多く走ってリーダーにカムバック。燃費に苦しんだシボレー勢が待望していたコーションが出ることもなく、昨年のミド-オハイオ以来、真っ先にチェッカーを受けることができました。
今季11戦で8人目のウィナーが誕生し、記念すべき通算30勝目となったディクソン。偶然にも最初の勝利が同じペンシルバニア州(ナザレス)で、2001年に当時の最年少記録となる20歳で獲得しました。通算では歴代10位となり、あと1勝でダリオ・フランキッティとセバスチャン・ブルデイ、ポール・トレイシーに並びます。また今回はターゲット・チップ・ガナッシ・レーシングにとって、すべてのカテゴリーのモータースポーツで通算100勝目。オーナーのガナッシはこのペンシルバニア出身なのですが、2011年のソノマでペンスキーが達成して以来、チームにとっては全カテゴリーで初の表彰台独占となりました。
「朝の時点で、勝てるとは思ってなかったよ。少し驚いているんだ」と本音をもらしたディクソン。「燃費が今日のキーになったと思う。そしてずっと燃料をセーブしながらも、前に行けるスピードを持っていた。クルマはかなりダウン・フォースを削って、積極的に前に出るセッティングだったんだけど、このペースでいけるのかどうか最初はわからなかった。グリッドに並んだシボレーのクルマはかなりダウンフォースがつくようになっていて、レースでは相当なドラッグ(抵抗)になっただろうから、その点でも有利だったと思う。これまでクルマがいい時はエンジンに問題があり、エンジンがいい時はクルマに問題があって、なかなかうまくいかなかったよ。ほぼ1年ぶりに勝ててうれしいし、ここから勢いに乗りたいね」
昨年のトロント以来となる自己ベストの2位を記録したのがチャーリー・キンボールでした。12番手スタートだった彼は、最後のピットでディクソンより1周多く走るほどの燃費でしたが、残り15周の時点でトップのディクソンとの差は1.9213秒もありました。最後は0.4572秒差まで迫り、フランキッティの前でゴールできたのは大きな自信につながるでしょうね。「スコット(ディクソン)はターン3に入る時の勢いという点で僕より上だった。全員が最後の25周はターン3の真ん中からスライドしっぱなしだったよ。エンジニアは毎ラップ僕にターン3に気をつけてって」とキンちゃん。この暑さと湿度でも、糖尿病はまったく問題なかったそうです。
3位は20番手スタートから追い上げてきたフランキッティで、ディクソンやキンボールと同様、かなり攻めのセッティングでありながら、燃費をセーブしていたとのこと。「上位勢がピットへ入り始め、自分の残りの燃料表示を見たときに、イケると思った。我々は彼らのドラフト(スリップストリーム)にいたし、イエローも助けになった。ウィッカーがないからトラフィックの中でクルマは安定しないし、コーナーではスピンしそうで厳しかったけど、その分燃費は良く、前に出ればとても速いクルマだったからね。予選を見ての通りパワーは少し足りないが、レースでのホンダの燃費は卓越していた。最近のオーバルでは大変だったから、気分がいいね」とダリオ。「ターン3は毎回アドベンチャーだった」というほど滑りっぱなしだったようで、3人のドライビング能力の高さも今回の大きな要因と言えるのではないでしょうか。
1988年以来となるチームメートのフロントロー独占でスタートし、アンドレッティが快調にレースをリード。160周中、最多となる88周もトップに君臨するほどの速さでしたが、トップを走る分、抵抗を受けて燃費が悪くなるのは当然のことで、「早い段階から燃費に気づいていたけど、間に合わなかった。もっと早く対策すべきだったと思う。みんながっかりしているし、あれだけレースを支配しながら、ほんとうにショックだ」とマルコ。最終的に同じ4回のピットでしたが、チェッカー後に燃料切れとなり、ピットまで帰ってくることができないほどの燃費走行を強いられていました。地元ということもあり、さぞ悔しかったでしょう。
このスタート直後のジェイムズ・ヒンチクリフのクラッシュから、アンドレッティ・オートスポーツの歯車が狂い始めました。2番手を走行していたライアン・ハンター-レイはピットインの際に、佐藤琢磨に追突されて戦線離脱。昨日までの快進撃が嘘のような大逆転のレースとなってしまいました。
1ミリオンのトリプル・クラウンがかかっていたカナーンは、107周目のターン1で前のディクソンをパスする際にフロントウィングを接触させてしまい、110周目の緊急ピットでウィングを交換。これで周回遅れとなってしまい、上位へ復帰できずに13位フィニッシュです。1ミリオンの権利はなくなったものの、最終戦のフォンタナで今回優勝したディクソンと、25万ドルをかけて戦うことになりますよ。
ディクソンの10グリッド降格でホンダ勢最上位となる7番手スタートとなった佐藤琢磨は、パワーで劣る状況ながらシボレー勢を次々とパス。1回目のピット後、36周目には3番手まで浮上します。ところが61周目の2度目のピットの際、ピットレーンへの進入で前のハンター-レイに追突してしまい、左リアにダメージ。乗ったままガレージに戻ってクルーが懸命に修復を試みたのですが、残念ながら再スタートは叶いませんでした。
「自分のミスです」と潔く認めた琢磨。「アンダーグリーンで誰もが攻めている状態でのピットストップだったのですが、結果的にオーバースピードでピットレーンに向かってしまい、減速を試みたもののクルマがスライドしてリアが流れ、コントロールを失って接触しました。それで彼のレースを台無しにしてしまったし、いつも素晴らしい仕事でバックアップしてくれているチームの期待に応えられず、すごく残念です」
「スタート直後はカストロネベスとの激しい攻防で、抜いたり抜かれたりという展開でした。その後しばらく5番手を走行していたのですが、その時はいっぱいいっぱいの状態で、最初のピットストップでリアウィングを寝かせ、トップスピードを伸ばす形にしてペースを上げることができました。前にマルコも見え、さあこれからという時に予定どおりピットへ入ったんです」と序盤を振りかえった返琢。「トップグループで十分に戦える力があり、そこまでクルマを作り上げることができたのは良かったと思います」
デトロイトで199勝目に到達しながら、なかなか200勝目をマークできなかったホンダが、ついに今回達成しました。オーバルでは昨年のテキサス以来で、デトロイトに続く今季2度目の表彰台独占に加え、トップ10に6台が占めるという素晴らしい結果です。1995年の初優勝はニューハンプシャーの1マイル、100勝目が2006年のリッチモンドの0.75マイル、そして今回の200勝目が2.5マイル・スーパースピードウェイと、すべてオーバルというのが興味深いですね。前列の右から3番目は栃木研究所の田辺豊治さんで、この4月からHPDに駐在しています。シーズン中の開発が制限されている中で戦闘力を高めるため、毎戦現場に来てチームやドライバーとのコミュニケーションをサポートし、開発に生かしていくのが田辺さんの仕事だそうです。実はCARTプロジェクトのスタート時のメンバーでもあり、「当時は日本人がたくさん駐在していたのですが、今はこうしてほとんど現地のスタッフだけで続いているのは誇らしく思います。当時のスタッフと一緒に200勝目を達成できて、非常にうれしいです」と喜んでいました。市街地やロードでの熟成も進んでいるそうで、これからの挽回が楽しみですね。
さて、すごい記録がいっきに達成された今回のポコノ。ディクソンではないですが、朝の時点でこのような結果になるとは誰も思っていなかったのではないでしょうか。24年ぶりの開催となりましたが、これまでのレースの平均速度記録の最高は最後に行われた1989年の170.720mphで、今回20マイル以上も上回る192.864mphを記録しました。当時は500マイル・レースだったので単純に比較はできませんが、イエローが少なかったというのも理由の一つと言えるかもしれませんね。
次回は注目のスタンディング・スタートが第12戦で採用されるトロントです(日曜日の第13戦は従来のローリングスタート)。ダブルヘッダーなので大変ですが、佐藤琢磨の得意な市街地コースが続くので、ぜひ挽回してほしいですね。ダブルヘッダーで、ワン・ワンといきましょう!
●決勝リザルト
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