厚い雲が覆った日曜日のセント・ピーターズバーグ。気温24.4度というコンディションのもと、午後12時33分、全車のエンジンにいっせいに火が入りました。ポールのW.パワーを先頭に、予選2位フロントローを獲得した佐藤琢磨はアウト側から並ぶどころか、完全に後ろのイン側にいるではないですか! 後で本人に聞いたところエンジンのパワーが相当違うようで、「プッシュトゥパスも使ったのですが、追いつきませんでした。シボレー勢に囲まれている中で、彼らの加速は驚異的でした」と琢磨。
みごと開幕戦を制したのはJ.ヒンチクリフでした。予選4位からスタートした彼は常に落ち着いた走りで上位をキープし、84周目の再スタート時にターン1でH.カストロネベスがミスし、オーバーランしたことでトップに躍進。しっかりと残り26周を守りきり、うれしい初優勝を達成です!
07年のP.トレイシー以来となるカナダ人ウィナーに輝いたヒンチクリフは、「我々のクルマはブラックタイヤでとても良く、ここで3勝もしているH.カストロネベスはレッドで、最後の再スタートを迎えたんだ。彼はミスした。けどトップに立ってからは燃料やタイヤもセーブしなきゃいけなかったから、ハッピーにはなれなかったね。あと30周でぜったいに彼は来るって思っていたよ」と終盤を振り返っています。よく最後まで抑えきりました。みごとです。
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「最高だよ。ダン(ウェルドン)の地元で、彼のクルマで勝てたんだから」と語ったヒンチ。2011年の最終戦で急逝したウェルドンの代わりにアンドレッティ・オート・スポーツ入りして、2年目となります。「この勝利を彼に捧げるよ!」とヒンチ。相変わらずナイスガイです。
昨年と同じ予選5位から追い上げてきたH.カストロネベスはどんどんポジションを上げ、僚友のW.パワーまでパスしてトップに浮上しました。今回の見所のひとつだったのが彼とパワーのバトルで、同じチームながらかなり激しくやり合ってましたね。最後の再スタートのミスに関しては「たぶん十分にタイヤを温めてなかったんだと思う。小さなミスだ。まだまだ学ぶことが多いよ」と反省しきり。
7番グリッドから追い上げてきたのがM.アンドレッティで、途中かつてのチームメートだったT.カナーンらと激しいバトルを繰り返していましたが、とても冷静でした。今年からカーナンバーを変え、心機一転で臨んだ今シーズン。「まるで優勝したような気分だよ。思うようにいかないことばかりで、苦労してきたからね。ハードワークが報われたから、最高の気分だ」とマルコ。このまま勢いを持続したいところです。
残り2周まで3番手をキープしていたシモーナ。最終ラップに突入する前の最終コーナーでわずかにコースアウトした隙に順位を落とし、6位でのフィニッシュとなりました。「残念だけど、もうタイヤが限界だったわ。でも我々にとってはいい週末で、6位でもハッピーよ。次のレースに向けて何をやるべきかがわかっているし、とてもエキサイトしているわ」と彼女。今年、大暴れしそうな予感です。
予選2位フロントローからスタートした佐藤琢磨は、最初のピットストップでピット作業に遅れが出て3番手に後退。2度目の再スタートでは前のカストロネベスとパワーがバトルを展開し、スローダウンした影響で琢磨はパワーと接触。フロントウィングにダメージを負ってアンダーステアが強くなってしまい、その後の再スタートではヒンチクリフにもパスされてしまいました。
もうひとつの問題はレース中にドリンクを飲めなかったことで、ピットでしか水分を補給できなかったことも不運といえるでしょう。4度目のピットで16番手までダウンしていた琢磨は、コーション中にもう一度ピットへ入ってフロント・ウィングを交換。ここから猛追を見せ、94周目にはファステストを記録する走りで8位フィニッシュを成し遂げました。ホンダ勢では5位のS.ディクソンに次ぐ2番手となります。
「けっこう大変な開幕戦だったというか、色々なことが起きてしまいましたね」と初戦を終えたばかりの琢磨は切り出しました。「レースを通して、パフォーマンスで見えたところと、自分たち(チーム)でもうちょっと準備しておかなければならなかったことと、色々な課題が見えました。結果的に、フロントロー・スタートから8位フィニッシュというのはやはり悔しいです。でもその中で、15番手ぐらいまで落ちてから巻き返して、8位でフィニッシュできたというのは良かったと思うのですが、ピットストップで毎回順位を落としてしまったり、本来テストでちゃんとやっておかなければならなかったドリンクが出なくて、最初からドリンクがない状態で走らなければならなかったとか、色々ありました」と振り返った琢磨。ピット作業やドリンクは改善できるとして、エンジンは2000マイルまで交換できないのが辛いところ。市街地コースでエンジン・パワーを補うほどの良いセットアップを持っているのが解っているだけに、厳しいシーズン序盤になりそうです。
これはヒンチクリフのヘルメットですが、後ろにDWのマークがありますね。そうD.ウェルドンのイニシャルです。もうひとつ、青と金のチェッカーフラッグですが、これは彼の母国のヒーローであるグレッグ・ムーアのヘルメット・デザインに影響されたもので、12歳の時にムーアと10分ほど話す機会があり、それで自分の人生が変わったそうです。赤いグローブもムーアを真似ているんだとか。その4ヵ月後の最終戦フォンタナで、24歳のムーアは亡くなりました。生きていたらどんなに喜んだでしょう。
ウェルドンがセント・ピーターズバーグに住んでいたこともあり、昨年、ターン10の道が「ダン・ウェルドン・ウェイ」に命名されましたね。今年はメイン・ストレートのグランドスタンドと、ターン10の間にダン・ウェルドンの記念碑が設けられました。2005年、IRLが初めてオーバル以外のレースを開催したのがここで、その時の勝者が彼だったのですが、アンドレッティ・オートスポーツ(当時はアンドレッティ・グリーン・レーシング)が優勝するのはその時以来、今回が2度目です。このメモリアルは市と主催者であるホンダ・グランプリ・オブ・セント・ピーターズバーグ、アメリカン・ホンダ、インディカーが協力し合って完成したそうです。
はい、ということで開幕戦のレポート、楽しんでいただけたでしょうか。最初から喜怒哀楽に満ちた素晴らしいレースとなり、これからのシーズンがいっそう楽しみになりましたね。第2戦のアラバマ・グランプリは2週間後、4月7日にグリーンフラッグです!
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